「「はあっ!」」
跳躍した望とリノアの一撃が剣閃を煌めかせる。
しかし、モンスターの無数の触手がそれを捌き、望とリノアに追撃を放つ。
「望くん、リノアちゃん、サポートは任せて!」
鞭を振るった花音が、望達に向かってくる攻撃を見据えた。
「花音、ありがとうな」
「花音、ありがとう」
花音のアシストを得て、望とリノアはモンスターの猛攻から逃れる。
花音の鞭がモンスターの動きを絡め取り、その隙に望とリノアの刃が閃いた。
「これなら、どうだ?」
「これなら、どう?」
望とリノアの一閃が、モンスターの触手を切り裂いていく。
しかし、その瞬間、後方に控えていた『レギオン』の魔術の使い手達がモンスターのHPを回復する。
『エアリアル・アロー!』
距離を詰めた奏良が唱えると、無数の風の矢が一斉にモンスターへと襲いかかった。
HPを示すゲージは少し減ったものの、青色のままだ。
「戦局は、向こうに有利な状況にあるな」
「切りがないな」
「切りがないね」
距離を取って銃を構えた奏良の懸念に、剣を引いた望とリノアは同意する。
『レギオン』が召喚したモンスターは少なくとも、望達が畏怖に値する敵ではあった。
躊躇していては危険だと即断させる力を秘めている。
「くっ……!」
「……っ!」
剣を翻した望とリノアは、一定の距離を保ってモンスターと対峙していた。
望とリノアによる、高度で複雑な剣閃の応酬によって蓄積されていくダメージ。
だが、モンスターのHPは、後方に控えていた『レギオン』の魔術の使い手達によって即座に回復されてしまう。
「望、リノア、こちらは任せろ!」
床を蹴った勇太は躊躇し、逡巡する望とリノアの横をすり抜ける。
起死回生の気合を込めて、賢に天賦のスキルの技を発動させた。
『フェイタル・ドライブ!』
勇太が大きく大剣を振りかぶり、光の刃が波動のように賢へと襲いかかった。
万雷にも似た轟音が響き渡る。
「ーーっ」
迷いのない一閃とともに、勇太の強烈な一撃を受けて、賢は怯んだ。
賢のHPが一気に減少する。
頭に浮かぶ青色のゲージは、半分まで減少していた。
勇太は畳み掛けるように、賢の間合いへと接近する。
「『星詠みの剣』!」
だが、賢が剣を掲げた瞬間、賢の周りに淡い光が纏う。
その瞬間、賢のHPゲージは、あっという間に半分から全快の青色に戻っていた。
「なっ!」
起死回生を込めた技を覆されて、勇太は虚を突かれたように呆然とする。
『星詠みの剣』の光の魔術の付与効果。
それは『完全回復』だった。
「完全回復か……」
「ああ」
驚愕する勇太を尻目に、賢は一呼吸置いてから付け加えた。
「君達が私を倒すためには、一撃必殺の攻撃を放って、私を戦闘不能にするしかないということだ。だが、今の君達にはそこまでの余力はないはずだ」
「一撃か……」
賢の表情を見て、勇太は察してしまった。
一撃必殺を決めるためには、圧倒的な強さが必要になる。
賢の指摘どおり、『レギオン』が召喚したモンスターと『レギオン』のギルドメンバー達の対処に追われている今の勇太達には、そのような余力はない。
たとえ、勇太がこの場で、『サンクチュアリの天空牢』で新たに覚えた『フェイタル・トリニティ』を使っても、賢を一撃で倒すことは困難だろう。
『アーク・ライト!』
「……っ! おじさん!」
その時、後方に控えていたリノアの父親は光の魔術を使って、望とリノア、そして勇太の体力を回復させる。
『お願い、ジズ! あのモンスターの動きを止めて!』
それと同時にリノアの母親も、自身の召喚のスキルで小さな精霊を呼び出し、モンスターの動きを制限しようとした。
しかし、それはあっさりと弾き返されてしまう。
「せめて、あのモンスターを倒すことが出来ればいいんだけどな」
勇太は、自分が相対している賢の実力を改めて実感する。
賢達『レギオン』が、望達『キャスケット』を押しているーー。
その厳然たる事実は、徐々にHPにも現れていった。
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