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留菜マナ
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第ニ百七十話 燻る想い②

公開日時: 2021年6月15日(火) 16:30
文字数:1,584

「「はあっ!」」


跳躍した望とリノアの一撃が剣閃を煌めかせる。

しかし、モンスターの無数の触手がそれを捌き、望とリノアに追撃を放つ。


「望くん、リノアちゃん、サポートは任せて!」


鞭を振るった花音が、望達に向かってくる攻撃を見据えた。


「花音、ありがとうな」

「花音、ありがとう」


花音のアシストを得て、望とリノアはモンスターの猛攻から逃れる。

花音の鞭がモンスターの動きを絡め取り、その隙に望とリノアの刃が閃いた。


「これなら、どうだ?」

「これなら、どう?」


望とリノアの一閃が、モンスターの触手を切り裂いていく。

しかし、その瞬間、後方に控えていた『レギオン』の魔術の使い手達がモンスターのHPを回復する。


『エアリアル・アロー!』


距離を詰めた奏良が唱えると、無数の風の矢が一斉にモンスターへと襲いかかった。

HPを示すゲージは少し減ったものの、青色のままだ。


「戦局は、向こうに有利な状況にあるな」

「切りがないな」

「切りがないね」


距離を取って銃を構えた奏良の懸念に、剣を引いた望とリノアは同意する。

『レギオン』が召喚したモンスターは少なくとも、望達が畏怖に値する敵ではあった。

躊躇していては危険だと即断させる力を秘めている。


「くっ……!」

「……っ!」


剣を翻した望とリノアは、一定の距離を保ってモンスターと対峙していた。

望とリノアによる、高度で複雑な剣閃の応酬によって蓄積されていくダメージ。

だが、モンスターのHPは、後方に控えていた『レギオン』の魔術の使い手達によって即座に回復されてしまう。


「望、リノア、こちらは任せろ!」


床を蹴った勇太は躊躇し、逡巡する望とリノアの横をすり抜ける。

起死回生の気合を込めて、賢に天賦のスキルの技を発動させた。


『フェイタル・ドライブ!』


勇太が大きく大剣を振りかぶり、光の刃が波動のように賢へと襲いかかった。

万雷にも似た轟音が響き渡る。


「ーーっ」


迷いのない一閃とともに、勇太の強烈な一撃を受けて、賢は怯んだ。

賢のHPが一気に減少する。

頭に浮かぶ青色のゲージは、半分まで減少していた。

勇太は畳み掛けるように、賢の間合いへと接近する。


「『星詠みの剣』!」


だが、賢が剣を掲げた瞬間、賢の周りに淡い光が纏う。

その瞬間、賢のHPゲージは、あっという間に半分から全快の青色に戻っていた。


「なっ!」


起死回生を込めた技を覆されて、勇太は虚を突かれたように呆然とする。

『星詠みの剣』の光の魔術の付与効果。

それは『完全回復』だった。


「完全回復か……」

「ああ」


驚愕する勇太を尻目に、賢は一呼吸置いてから付け加えた。


「君達が私を倒すためには、一撃必殺の攻撃を放って、私を戦闘不能にするしかないということだ。だが、今の君達にはそこまでの余力はないはずだ」

「一撃か……」


賢の表情を見て、勇太は察してしまった。

一撃必殺を決めるためには、圧倒的な強さが必要になる。

賢の指摘どおり、『レギオン』が召喚したモンスターと『レギオン』のギルドメンバー達の対処に追われている今の勇太達には、そのような余力はない。

たとえ、勇太がこの場で、『サンクチュアリの天空牢』で新たに覚えた『フェイタル・トリニティ』を使っても、賢を一撃で倒すことは困難だろう。


『アーク・ライト!』

「……っ! おじさん!」


その時、後方に控えていたリノアの父親は光の魔術を使って、望とリノア、そして勇太の体力を回復させる。


『お願い、ジズ! あのモンスターの動きを止めて!』


それと同時にリノアの母親も、自身の召喚のスキルで小さな精霊を呼び出し、モンスターの動きを制限しようとした。

しかし、それはあっさりと弾き返されてしまう。


「せめて、あのモンスターを倒すことが出来ればいいんだけどな」


勇太は、自分が相対している賢の実力を改めて実感する。


賢達『レギオン』が、望達『キャスケット』を押しているーー。


その厳然たる事実は、徐々にHPにも現れていった。

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