「……どうすれば、いいんだ?」
「……どうすれば、いいの?」
「椎音愛梨と入れ変わればいい。君の特殊スキル、魂分配(ソウル・シェア)は、既に美羅様も使用している。あとは、椎音愛梨の特殊スキル、仮想概念(アポカリウス)。それを美羅様が使ったという事実だけで、全ての状況は覆される」
愉悦に満ちた賢の過剰な反応に、望の背中を冷たい焦燥が伝う。
ーー愛梨と入れ変わるのは、避けなくてはならない。
まるで愛梨に変わること自体が意味のあるような立ち振る舞いに、望の思考は一つの推論を導いた。
「何故、そこまでして、完璧な理想の世界にこだわるんだ。美羅の真の力を発動しなくても、世界は俺達の知っている世界とは変わっている」
「何故、そこまでして、完璧な理想の世界にこだわるの。美羅の真の力を発動しなくても、世界は私達の知っている世界とは変わっている」
「私は、美羅様の真なる力を見てみたい。そして、君達が、美羅様とシンクロすることで、あまねく人々を楽園へと導きたいんだ」
核心を突く望とリノアの言葉に、賢はどうしようもなく期待に満ちた表情で、ただ事実だけを口にする。
「楽園。理想の世界……。また、それか」
「楽園。理想の世界……。また、それね」
望とリノアは噛みしめるようにつぶやくと、胸の奥の火が急速に消えていくような気がした。
同時にフル回転していた思考がゆるみ、強張っていた全身から力がぬけていく。
まさに、熱くなった身体に冷や水をかけられた気分だった。
「俺は、みんなの力になりたい。だけど、みんなが悲しむことをするつもりはない」
「私は、みんなの力になりたい。だけど、みんなが悲しむことをするつもりはないの」
「君達の意思は変わらないということか」
確信を込めて静かに告げられた望とリノアの拒絶は、この上なく賢の心を揺さぶった。
「恐れる必要はありません」
その時、凛とした声が戦場内に響き渡った。
前に進み出たかなめは、無感動に望を見つめる。
「椎音愛梨の特殊スキル、仮想概念(アポカリウス)。それを美羅様が使ったという事実だけで、あまねく人々を楽園へと導くことができるのです。これからあなたと椎音愛梨が行う功績は、未来永劫、称えられることになるでしょう」
かなめは両手を広げて、静かな声音で告げた。
「さあ、蜜風望。美羅様のために、椎音愛梨へと変わりなさい。あなた方の意思は、未来永劫、女神様の意思へと引き継がれていくのですから」
「悪いけれど、俺は協力するつもりはない」
「悪いけれど、私は協力するつもりはない」
かなめの戯れ言に、望とリノアは不満そうに表情を歪める。
「……そうですか。だけど、あなた方がいくら拒んでも、私達はあなた方の協力を求め続けます。それが世界のためになるのですから」
傲慢でも自信でもない。
それがこの世界の事実であるようにかなめは語り続けた。
「久遠リノアを救いたいのでしょう? なら、手段は一つしかありません。美羅様の真なる力の解放しか、彼女を救う手立てはないのですから」
「望、勇太、惑わされるなよ! そんなことはないからな!」
かなめの戯れ言に反応して、光龍を使役していた徹は叩きつけるようにして言う。
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