兄と妹とVRMMOゲームと

留菜マナ
留菜マナ

第十三話 その先の未来①

公開日時: 2020年11月5日(木) 16:00
文字数:1,144

襲撃者達を撃退した後、花音は興味津々な様子でカリリア遺跡の入口へと視線を向けた。


「お兄ちゃん、望くん! そろそろ遺跡に入ろうー!」

「ああ」


望が駆け寄ると、花音は悪戯っぽく目を細める。

もう一人のギルドメンバーと今後のことで話し合っていた有が、インターフェースで表示したカリリア遺跡のマップを見つめて言った。


「待て、妹よ。奏良(そら)がまだ来ていない」

「えっー! もう、奏良くん、時間厳守だよ!」


一旦、マップを消した有は、遺跡に向かおうとした花音を呼び止める。

有達のギルド『キャスケット』。

望達、六人しかいないという少人数の小規模ギルドだ。

だが、それでも、上位ギルドの一つとして名を馳せている。

それは、望が持つ特殊スキルの恩恵が、大きく関係していた。

世界を牛耳る力と謳われ、現実世界をも干渉する力と言われている特殊スキル。

特殊スキルを使える者が、ギルドに所属しているだけで上位ギルドとして認められる。

また、特殊スキルの使い手は、望を含めて三人しかいないため、望自身は常に狙われる立場だった。

もう一人のギルドメンバーを待っていた望達を、別の上位ギルドのメンバー達が一斉に取り囲む。


「特殊スキル、魂分配(ソウル・シェア)のスキル。誰にも真似できないスキル、絶対に手に入れる」

「蜜風望。俺達のギルドに入れ!」

「いや、俺はもう、ギルドに所属しているから」


望自身の意思など関係なく、彼らは揃って欲望をぶちまけている。


「この間のダンジョンといい、いつも望は大人気だな」

「望くん、すごーい!」


有の大胆発言に、花音は両手を広げて歓喜の声を上げた。


「すごくない……」


包囲してくるプレイヤー達を前に、望はげんなりとした表情で肩を落とす。


「一人一人、相手にしていては、遺跡攻略に間に合わなくなるな」

「有」


呆気に取られた望をよそに、杖を構えた有は一歩足を踏み出した。


『元素還元!』


有は、プレイヤー達を牽制するように杖を振り下ろす。


「なっ?」

「うわっ!?」


有の杖が遺跡の柱に触れた途端、とてつもない衝撃が周囲を襲った。

柱の一つが、まるで蛍火のようなほの明るい光を撒き散らし、崩れ落ちるように消滅したのだ。

柱の一つが消えたことで、その直撃を受けた遺跡の入口には大きな亀裂が入る。

アイテム生成のスキル。

それは不完全な物質を、完全な物質へと錬成するスキルだ。

様々な道具を作り出す力で、錬金術に近いスキルとして用いられていた。


「柱一本分の元素では、回復アイテムを一つ作るくらいが関の山だな」


有は一仕事終えたように、眩しく輝く杖の先端の宝玉を見ていた。

だが、今はアイテム生成をしている暇はない。


「望、妹よ、遺跡に入るぞ! 奏良とは、遺跡内で合流する」

「ああ、分かった」

「うん」


有の指示に、望は花音の腕を引いて、遺跡の入口へと向かった。

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