襲撃者達を撃退した後、花音は興味津々な様子でカリリア遺跡の入口へと視線を向けた。
「お兄ちゃん、望くん! そろそろ遺跡に入ろうー!」
「ああ」
望が駆け寄ると、花音は悪戯っぽく目を細める。
もう一人のギルドメンバーと今後のことで話し合っていた有が、インターフェースで表示したカリリア遺跡のマップを見つめて言った。
「待て、妹よ。奏良(そら)がまだ来ていない」
「えっー! もう、奏良くん、時間厳守だよ!」
一旦、マップを消した有は、遺跡に向かおうとした花音を呼び止める。
有達のギルド『キャスケット』。
望達、六人しかいないという少人数の小規模ギルドだ。
だが、それでも、上位ギルドの一つとして名を馳せている。
それは、望が持つ特殊スキルの恩恵が、大きく関係していた。
世界を牛耳る力と謳われ、現実世界をも干渉する力と言われている特殊スキル。
特殊スキルを使える者が、ギルドに所属しているだけで上位ギルドとして認められる。
また、特殊スキルの使い手は、望を含めて三人しかいないため、望自身は常に狙われる立場だった。
もう一人のギルドメンバーを待っていた望達を、別の上位ギルドのメンバー達が一斉に取り囲む。
「特殊スキル、魂分配(ソウル・シェア)のスキル。誰にも真似できないスキル、絶対に手に入れる」
「蜜風望。俺達のギルドに入れ!」
「いや、俺はもう、ギルドに所属しているから」
望自身の意思など関係なく、彼らは揃って欲望をぶちまけている。
「この間のダンジョンといい、いつも望は大人気だな」
「望くん、すごーい!」
有の大胆発言に、花音は両手を広げて歓喜の声を上げた。
「すごくない……」
包囲してくるプレイヤー達を前に、望はげんなりとした表情で肩を落とす。
「一人一人、相手にしていては、遺跡攻略に間に合わなくなるな」
「有」
呆気に取られた望をよそに、杖を構えた有は一歩足を踏み出した。
『元素還元!』
有は、プレイヤー達を牽制するように杖を振り下ろす。
「なっ?」
「うわっ!?」
有の杖が遺跡の柱に触れた途端、とてつもない衝撃が周囲を襲った。
柱の一つが、まるで蛍火のようなほの明るい光を撒き散らし、崩れ落ちるように消滅したのだ。
柱の一つが消えたことで、その直撃を受けた遺跡の入口には大きな亀裂が入る。
アイテム生成のスキル。
それは不完全な物質を、完全な物質へと錬成するスキルだ。
様々な道具を作り出す力で、錬金術に近いスキルとして用いられていた。
「柱一本分の元素では、回復アイテムを一つ作るくらいが関の山だな」
有は一仕事終えたように、眩しく輝く杖の先端の宝玉を見ていた。
だが、今はアイテム生成をしている暇はない。
「望、妹よ、遺跡に入るぞ! 奏良とは、遺跡内で合流する」
「ああ、分かった」
「うん」
有の指示に、望は花音の腕を引いて、遺跡の入口へと向かった。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!