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留菜マナ
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第百八十話 忘れじの茸雲⑧

公開日時: 2021年3月17日(水) 16:30
文字数:1,517

「お兄ちゃん、まだ追ってくるよ!」

「しつこい奴らだな」


花音が鞭で『カーラ』のギルドメンバー達を凪ぎ払おうとしても、『カーラ』のギルドメンバー達は彼女の行動を読んだように即座に避ける。


『元素還元!』

『復元!』


有は、プレイヤー達を牽制するように床に向かって杖を振り下ろしたが、同じスキルの『カーラ』のギルドメンバーによって崩壊させようとしていた通路を再び、生成されてしまう。


「妹よ、このままではまずいぞ」


望達が後手に回るのを見計らって、次々と壁を作るように後続のプレイヤー達が現れる。


「みんな、気をつけろ!」

「みんな、気をつけて!」


挟み撃ちを受けた望達は、歩を一旦止めーー申し合わせたように一斉に戦場へと踊り出た。


「くっ!」

「ーーっ!」


望とリノアは先導しながら、目の前に迫る『カーラ』のギルドメンバー達を倒していった。


「切りがないな」


望は標的を切り替え、剣を構え直す。

狙うべきは、進行方向の『カーラ』のギルドメンバー達だったのだが、行く手を塞ぐようにその場から動かない。


「貫け、『エアリアル・アロー!』」


奏良が唱えると、無数の風の矢が一斉に距離を取ろうとしていた『カーラ』のギルドメンバー達へと襲いかかる。

風の矢を避けながら、『カーラ』のギルドメンバー達は身を強張らせた。


「一気に行くよ!」


花音は身を翻しながら、鞭を振るい、『カーラ』のギルドメンバー達を翻弄する。

状況の苛烈さから一旦、退避しようとした『カーラ』のギルドメンバー達を畳み掛けるように、プラネットは一歩足を踏み出した。


「通させて頂きます!」


プラネットは吹っ切れた言葉ともに、両拳を『カーラ』のギルドメンバー達に叩きつけた。

それと同時に高濃度のプラズマが走り、爆音が響き渡る。


『フェイタル・レジェンド!』


跳躍した勇太は大剣を構え、大技をぶちかました。

勇太の放った天賦のスキルによる波動が、『カーラ』のギルドメンバー達を襲う。


「本当に数が多いな」


望達はまるで競い合うように、『カーラ』のギルドメンバー達を倒していった。

だが、相手の数は想像以上だ。

しかも、倒しても倒しても、『カーラ』のギルドメンバー達は四方八方から現れ、次々に襲い掛かってくる。

全てを倒しきるのは不可能だろう。


「望、奏良、プラネット、勇太、そして妹よ、このままでは、埒が明かない。イリス達と合流するぞ!」

「ああ、分かった」

「うん、分かった」


有の指示の下、望達は洞窟の入口で戦闘を繰り広げているイリス達のもとへと向かう。

洞窟の入口は内部と同様に、苛烈さを極めている。

『シャングリ・ラの鍾乳洞』全体を揺らす衝撃が、イリス達とガーゴイル達の戦闘の激しさを物語っていた。


「イリスちゃん!」

「皆様、ご無事で何よりです」


花音が安堵の表情を浮かべると、戦闘を切り上げたイリスは誠意を伝えてくる。


「イリス。ララとともに、転送アイテムを使えるようになるまでの時間を稼げるか?」

「徹様、問題ありません」


徹の指示に、イリスが槍を素早く構え直し、気合いを入れる。


「行きます!」

「ーーなっ」


イリスは、『カーラ』のギルドメンバー達の挙動に注意を傾ける。

彼女は躍動すると、望達に襲い掛かってきた『カーラ』のギルドメンバー達を勢いよく叩き伏せた。

この瞬間、『カーラ』のギルドメンバー達の目標はイリスに切り替わった。

次々と襲いかかって来る集団を、イリスは機敏な動きでかわす。


「今だ!」


だが、イリスが着地した隙を見逃さず、残った『カーラ』のギルドメンバー達は突撃を仕掛ける。


「ララ、『カーラ』のギルドメンバー達を止めろ!」

「了解!」


金色の光を身に纏った人型の精霊。

妖精達とさほど変わらない体躯の精霊ララは、主である徹の指示に従ってふわりと飛来した。

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