「手嶋賢様。ニコットはアルビノの鞭を所望します」
「アルビノの鞭……? カリリア遺跡で、最初にボス討伐を行ったギルドのみに配布された伝説の武器の一つ……」
無邪気に嗤う少女ーーニコットの発言を聞いて、望は嫌な予感がした。
しかし、望の驚愕には気づかずに、ニコットは淡々と神速の弓を受け取る。
「アルビノの鞭を用いて、妨害対象を排除します」
「それは、こちらの台詞です。彼らとともに今すぐ、ここから立ち去りなさい」
「ニコットはこのまま、指令を続行します」
一方的な要求に、イリスは表情を歪めたくなるのを堪える。
「あなたに警告します。今すぐ、ここから立ち去りなさい」
「お断りします。ニコットはこのまま、指令を続行します」
「なら、私達も力ずくで、あなたを排除させて頂きます!」
躍動する闇と槍の光が入り乱れる戦場を、イリスは凄まじい速度で駆ける。
彼女の繰り出す斬撃は早く鋭く、回避しようと振り切ったニコットをいとも容易く切り裂いていく。
「……っ」
だが、ニコットもまた、疾風の如く戦場を駆け抜ける。
襲い掛かってくる兇嵐の槍を、アルビノの鞭をふりかざして捌いていく。
「ニコットちゃんって、もしかして伝説の武器を使いこなせるの?」
「お答えできない内容と判断します」
花音の問いを、ニコットは即座に受け流した。
ニコットはただ自然に隙もなく、イリスからの攻撃を捌いている。
「ニコットはこのまま、手嶋賢様の指示どおり、指令を続行します」
「随分と余裕ですね」
ニコットの言葉に呼応するように、気迫の篭ったイリスの声が響き、行く手を遮るモンスター達が次々と爆ぜていった。
「ニコットの最終目的は、美羅様の真なる覚醒。そのために、美羅様と特殊スキルの使い手を完全にシンクロさせることです」
「あくまでも目的は、望と愛梨とのシンクロか」
ニコットの意味深な発言に、奏良はインターフェースを操作して、機械人形型のNPCであるニコットの情報を表示させた。
周囲の様子を窺っていたプラネットは、真剣な眼差しで有を見つめる。
「有様。リノア様が意識を保っていられるのはわずかの間だけです」
「プラネットよ、分かっている。だが、まだ父さんと母さんからの連絡はない」
プラネットの懸念に、有は顔を強ばらせた。
「リノアの意識の覚醒の妨げになっているのは、美羅そのものだ。全ての美羅の残滓を消滅させたら、リノアは完全に意識を取り戻すことができるはずだ」
望は情報を照らし合わせてから、前を見据えた。
「ただ、美羅の残滓は様々な場所に点在している。全て消滅させるのは、どうしても時間がかかってしまうな」
だからこそ、徹は敢えてそう結論づける。
あらゆる可能性を拾い集めるしかないと判断して。
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