有は前に進み出ると、不穏な空気を吹き飛ばすように口火を切った。
「『カーラ』のギルドホームがある幻想郷『アウレリア』。そして、『レギオン』のギルドホームがある機械都市、『グランティア』。この二ヶ所は敵ギルドの拠点であり、何か重要な情報が隠されているはずだ」
「つまり、リノアを救う手掛かりも、そこにあるかもしれないんだな」
有の所懐に、望は『レギオン』と『カーラ』の情勢を勘案する。
「だが、望よ。『レギオン』のギルドホームがある機械都市、『グランティア』。ここは『レギオン』のギルドメンバーと『カーラ』のギルドメンバー以外は容易に入ることができない場所だ」
「そうか」
『レギオン』と初めて遭遇した忌まわしき出来事が、望にはまるで昨日、起きたことのように追憶された。
カリリア遺跡から離れた場所にある機械都市、『グランティア』の一角。
そこに高位ギルドの一つ、『レギオン』のギルドホームがある。
美羅の真なる覚醒を求める参謀の賢が実質、実権を握っているギルドだ。
仮想世界だけではなく、現実世界にまで影響を及ぼしてくる高位ギルド。
本来なら、自分達には手に余る事柄だ。
考えるだけで気が重くなってくる。
美羅の真なる覚醒ーー。
そのためには、リノアに愛梨の特殊スキルを使わせる必要がある。
『椎音愛梨』
望が『魂分配(ソウル・シェア)のスキル』を使い、眠りに落ちることで、それと連動するかのように愛梨は目覚める。
仮想世界、現実世界、どちらの場合でも愛梨と入れ替わる起因は望の特殊スキルだった。
望は今も確かに、愛梨として生きた記憶を持ち合わせている。
愛梨が嬉しかったことも、悲しかったことも、恥ずかしかった時も、彼女の生前の記憶さえも、全てが自分の感情であり、記憶であるように感じた。
愛梨として生きた自分は、呆れるくらい愛梨としての自覚しかなくてーー。
望はあの日以来、自分の想いとは別の不思議な感情が沸き上がるのを感じた。
『レギオン』の拠点である機械都市、『グランティア』。
『カーラ』の拠点である幻想郷『アウレリア』。
現実世界と仮想世界を裏側から改竄(かいざん)せんと企む存在。
望達はこの世界を操作しようとする存在への反撃を試みる。
勇太とともに交わした約束への決着をつけるためにーー。
複雑に交差し入り乱れていた全ての線が、いまこの瞬間にひとつの点へと収束する。
今こそ、決着へと向かう時。
望は全ての不義に落着をつける意思を固めた。
「ねえ、お兄ちゃん。『レギオン』のギルドホームに近づくのは危険じゃないのかな?」
だが、その決意を伝える前に先んじて言葉が飛んできて、望は口にしかけた言葉を呑み込む。
「その通りだ、妹よ。残念だが、望を『直接』、機械都市、『グランティア』に行かせるわけにはいかない」
「ーーっ」
有の断言に、望は苦悶の表情を浮かべた。
「五大都市の一つ、機械都市『グランティア』。リノアを救うためとはいえ、『レギオン』のギルドホームに近づくのは危険だ。もちろん、現実世界でリノアが隔離されている病院から連れ出すのも困難を極めるだろう」
「彼女が入院している病院内には、『レギオン』と『カーラ』の関係者がいるからな」
有の懸念に、奏良は深刻な表情を浮かべる。
「しかし、望が一向に愛梨に変わらなければ再度、望への接触を試みてくるはずだ。なら、残りのダンジョン調査は『アルティメット・ハーヴェスト』の者達と分担して、同時に調査を行おうと思っている。『レギオン』と『カーラ』の者達を誘引するためにな」
「誘引……。わざと徹達と分かれて、『レギオン』と『カーラ』を誘き出すのか……!」
探りを入れるような有の思惑を聞いて、望はこれから成すべきことを理解した。
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