賢による蹂躙とも呼べる絶対的強者の振る舞い。
互角だった剣戟は、ことごとく賢に弾き返される。
「絶対にリノアを救ってみせる!」
圧倒されながらも立ち向かっていく、勇太の強い気概。
賢はそれらを捌き、相殺していく。
「柏原勇太は、私が相手をしよう。君達は、召喚したモンスターの助力と蜜風望達を頼む」
「はっ」
賢の指示に、『レギオン』のギルドメンバー達は丁重に一礼する。
その言葉を合図に、『レギオン』のギルドメンバー達はそれぞれの武器を構えた望達と対峙した。
このまま、この状況で戦うのはまずいなーー。
徹の頭の中で警鐘が鳴る。
様子を窺っていた徹は、改めて周囲を見渡した。
『レギオン』のギルドメンバーの魔術のスキルの使い手達は、今も後方で援護魔術を練り上げている。
「何とかして、望達が転送アイテムを使えるようにしないといけないな」
徹は少し躊躇うようにため息を吐くと、複雑な想いを滲ませる。
「まずは、俺と魔術のスキルの使い手達で、モンスターの背後に居る『レギオン』の魔術のスキルの使い手達を止める。他のみんなは、周辺の『レギオン』のギルドメンバー達に対処してくれないか!」
徹は気持ちを切り替えるように一呼吸置くと、『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドメンバー達はそれに応えた。
全員がレア装備を身につけ、それぞれの武器を『レギオン』のギルドメンバー達に突きつけてくる。
陣を張った『アルティメット・ハーヴェスト』の動きを見て、有は今後の方針を口にした。
「望、リノアよ、『アルティメット・ハーヴェスト』が、『レギオン』のメンバー達を抑えてくれるというのなら、俺達はあのモンスターを倒すぞ!」
「……有。あのモンスターを倒すためには、かなりの時間を要する。みんなの体力を考慮して、交互に前衛を切り替えていった方がいいと思う」
迎え撃つ姿勢の有の意思に、奏良はモンスターを威嚇するように発砲しながら苦言を呈した。
有の表情が硬く強張ったのを見て、奏良は付け加えるように続ける。
「だが、『アルティメット・ハーヴェスト』が抑えに回ってくれている今なら、あのモンスターを倒すことは出来る。そのためには、みんなの体力を回復させる必要があると僕は思う」
「はい。あのモンスターを討伐する方法はあります」
「討伐する方法?」
有の疑問を受けて、プラネットは花音に目配せした。
花音は即座にインターフェースを使い、ステータスを表示させると、自身のスキル技を確認する。
「妹よ、どういうことだ?」
「あのね、お兄ちゃん。私のスキルを使えば、あのモンスターに対処出来るんだよ!」
有の発言に、花音は両手を広げて歓喜の声を上げた。
「花音のスキル『クロス・リビジョン』を使えば、モンスターは麻痺の効果で、動きが鈍くなる」
「なるほどな。鞭の天賦のスキルは、ステータス異常を発生させる技が多かったな」
「なるほどね。鞭の天賦のスキルは、ステータス異常を発生させる技が多かったね」
奏良が事実を如実に語ると、望とリノアは納得したように首肯する。
「気づいたようだな……」
奏良が告げた想定内の提案に、勇太の連撃を対処していた賢は表情にわずかな亀裂を入れる。
その理由について、もう疑念を差し込む余地はなかった。
最初から、望達が感付くことを見越していたーー。
混乱しきっていた思考がどうにか収まり、勇太は剣呑の眼差しで賢を睨み付けた。
「おまえ、やっぱり、望達が『麻痺を施すスキル』を使って対処することを見越していたんだな!」
「君の考えているとおりだ」
鬼気迫る勇太の激昂を、賢は軽く受け流す。
勇太が瞬接し、賢と打ち合いながら猛る。
「あのモンスターを呼び出した目的は何だ!」
「あのモンスターを前持って呼び出して置いたのは、蜜風望達の動きを封じるためだ。そのための時間稼ぎに過ぎない」
勇太の否定的な意見を、賢は予測していたように作業じみたため息を吐いた。
「美羅様の真なる力は、どのようなものなのか。私は知りたい。そして蜜風望と椎音愛梨が、美羅様とシンクロすることで、全てのあまねく人々を楽園へと導きたいんだ」
賢は恍惚とした表情で天空を見上げながら、己の夢を物語る。
勇太は大剣を突きつけると、賢に向かって叫んだ。
「そんなことさせるか。リノアを今すぐ、元に戻せ!」
「蜜風望と椎音愛梨が、美羅様の真なる力の発動に協力してくれた場合、その願いに応えよう。だが、拒否するのであれば、それはできない。美羅様には、彼女の器が必要だからな」
勇太の訴えを、賢はつまらなそうに一蹴する。
「だったら、これからもリノアを元に戻す方法を探すだけだ! おまえ達の狙いに抗する形の方法を、必ず見つけ出す!」
「……愚かな」
勇太の即座の切り返しに、賢は落胆したようにため息をつく。
一瞬の静寂後、勇太と賢は同時に動いた。
二人は一瞬で間合いを詰めて、互いが放つ剣技を相殺し合う。
何度目かの攻防戦。
しかし、賢は勇太との戦いにおいて、無類の強さを誇っていた。
「何度挑んできても、結果は同じだ」
「ーーっ!」
賢がさらに地面を蹴って、勇太に迫る。
勇太の隙を突いて、賢による最速の一突きが飛来した。
「くっーー」
勇太は即座に後方に跳び、賢の突きを寸前のところで避ける。
一瞬で動揺を切り捨てて、大剣を構えた勇太は望とリノアから請われた当初の狙いを完遂しようとした。
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