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留菜マナ
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第ニ百四十九話 黄昏時の邂逅⑤

公開日時: 2021年5月25日(火) 16:30
文字数:1,104

「俺も加勢をしないとな」


徹がそう告げたその瞬間、背中に不穏な気配を感じ取る。

徹は振り返ることはせずに、ただ一言、言葉を発した。


『ーー我が声に従え、光龍、ブラッド・ヴェイン!』

「ーーっ!」


今まさに、背後から徹に襲い掛かろうとしていた騎士風の青年ーー賢は、突如、目の前に現れた光龍の咆哮によってそれを防がれてしまう。

金色の光を身に纏った四肢を持つ光龍。

巨躯の光龍は、主である徹に危害を加えようとした賢を睥睨した。

徹が呼び出した光龍は、さらに身体を捻らせて青年に迫る。


「くっ」


剣を防がれたのが予想外だったのか、賢は体勢を立て直すこともできずにまともに喰らう。

しかし、光龍の更なる追撃は、駆けつけた別のプレイヤー達によって防がれてしまった。


「なっ!」


鋭く声を飛ばした徹は、ダンジョンの奥から次々と迫ってくるプレイヤー達の存在に気づいた。

全員がレア装備を身につけ、それぞれの武器を徹達に突きつけてくる。


このまま、ここで戦うのはまずいなーー。


徹の頭の中で警鐘が鳴る。

やがて、ダンジョンの瓦礫から入る光が、闖入者達の容貌を照らし出す。

賢の周囲には、幾人もの『レギオン』のギルドメンバー達がいた。

そして、次々と壁を作るように後続が現れる。

相手は、騎士団に等しい。

それらを相手に戦い、このダンジョンから脱出するのは骨が折れるだろう。

徹が踵を返すタイミングを見計らっていると、賢は柔和な笑みを浮かべて言った。


「鶫原徹くん。私達の邪魔をしないでもらおうか」

「なら、そもそも騎士様が不意討ちなんてするなよな」

「君に無礼を働いたことは謝罪しよう」


徹の訴えに、賢はあっさりと自分の非を認めた。


「さて、改めて、君達と交渉をしようではないか」

「おまえ達と交渉する余地はないからな」


徹の考えを見透かしたような賢の発言に、徹は恨めしそうに唇を尖らせる。

賢は目を伏せると、静かにこう続けた。


「なら、君ではなく、『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドマスターにお越し願いたい。わざわざ、君達に全てを任せている理由を知りたい」

「……おまえ、知っていて、わざと聞いているだろう」


賢の戯れ言に、徹は不満そうに表情を歪める。


「特殊スキルの使い手の動向は、私達としても放っておくわけにはいかない」

「とにかく、愛梨も紘も、そして蜜風望も、おまえ達に渡すつもりなんてないからな!」


賢の言葉を打ち消すように、徹はきっぱりとそう言い放った。


「そもそも、おまえ達が言う美羅様は、久遠リノアだろう!」

「……愚かな。彼女はもう美羅様だ」


徹の答えを聞いて、賢は失望した表情を作った。

殺伐とした雰囲気が、この場を支配する。

徹はその隙に踵を返して、望達の後を追って駆け出した。


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