「俺も加勢をしないとな」
徹がそう告げたその瞬間、背中に不穏な気配を感じ取る。
徹は振り返ることはせずに、ただ一言、言葉を発した。
『ーー我が声に従え、光龍、ブラッド・ヴェイン!』
「ーーっ!」
今まさに、背後から徹に襲い掛かろうとしていた騎士風の青年ーー賢は、突如、目の前に現れた光龍の咆哮によってそれを防がれてしまう。
金色の光を身に纏った四肢を持つ光龍。
巨躯の光龍は、主である徹に危害を加えようとした賢を睥睨した。
徹が呼び出した光龍は、さらに身体を捻らせて青年に迫る。
「くっ」
剣を防がれたのが予想外だったのか、賢は体勢を立て直すこともできずにまともに喰らう。
しかし、光龍の更なる追撃は、駆けつけた別のプレイヤー達によって防がれてしまった。
「なっ!」
鋭く声を飛ばした徹は、ダンジョンの奥から次々と迫ってくるプレイヤー達の存在に気づいた。
全員がレア装備を身につけ、それぞれの武器を徹達に突きつけてくる。
このまま、ここで戦うのはまずいなーー。
徹の頭の中で警鐘が鳴る。
やがて、ダンジョンの瓦礫から入る光が、闖入者達の容貌を照らし出す。
賢の周囲には、幾人もの『レギオン』のギルドメンバー達がいた。
そして、次々と壁を作るように後続が現れる。
相手は、騎士団に等しい。
それらを相手に戦い、このダンジョンから脱出するのは骨が折れるだろう。
徹が踵を返すタイミングを見計らっていると、賢は柔和な笑みを浮かべて言った。
「鶫原徹くん。私達の邪魔をしないでもらおうか」
「なら、そもそも騎士様が不意討ちなんてするなよな」
「君に無礼を働いたことは謝罪しよう」
徹の訴えに、賢はあっさりと自分の非を認めた。
「さて、改めて、君達と交渉をしようではないか」
「おまえ達と交渉する余地はないからな」
徹の考えを見透かしたような賢の発言に、徹は恨めしそうに唇を尖らせる。
賢は目を伏せると、静かにこう続けた。
「なら、君ではなく、『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドマスターにお越し願いたい。わざわざ、君達に全てを任せている理由を知りたい」
「……おまえ、知っていて、わざと聞いているだろう」
賢の戯れ言に、徹は不満そうに表情を歪める。
「特殊スキルの使い手の動向は、私達としても放っておくわけにはいかない」
「とにかく、愛梨も紘も、そして蜜風望も、おまえ達に渡すつもりなんてないからな!」
賢の言葉を打ち消すように、徹はきっぱりとそう言い放った。
「そもそも、おまえ達が言う美羅様は、久遠リノアだろう!」
「……愚かな。彼女はもう美羅様だ」
徹の答えを聞いて、賢は失望した表情を作った。
殺伐とした雰囲気が、この場を支配する。
徹はその隙に踵を返して、望達の後を追って駆け出した。
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