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留菜マナ
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第四百七十ニ話 あの世界を生きた君は今③

公開日時: 2024年4月22日(月) 16:30
文字数:957

「『キャスケット』と『アルティメット・ハーヴェスト』。お兄様を追い詰めただけのことはありますね」


戦況に目を配っていたかなめが不安を端的に言い表す。


「確かに、この部屋の最上部には、この部屋の秘密を解くための鍵があります」


晴れやかな表情さえ浮かべて、かなめはそう告げる。


「でも、あなた方がそれを見つけることは叶いません」


確かな事実を発するかなめの声が、望達の耳朶(じだ)に否応なく突き刺さった。


「何故なら、それは約束されたこと」


かなめの発した言が室内に静かに木霊する。


「美羅様の前では、あなた方の行動は予測済み――」


かなめの言葉が途切れる。

何故ならーー


「その行動も予測済みです!」

「……っ!」


イリスが跳躍し、かなめの不意を突くようなかたちで槍を振るってきたからだ。


「吉乃かなめ。あなたの相手は、私達のはずです!」

「私は蜜風望に用があります。ですが、あなたがその妨害に徹するというのでしたら、相手になりましょう」


かなめが憂いを帯びた眼差しでイリスに視線を向けた途端、金色の光を身に纏った四肢を持つ光龍が立ち塞がる。


「『達』。もちろん、一人じゃないよな」

「なるほど。鶫原徹、そして『アルティメット・ハーヴェスト』が誇るNPC。まずはあなた方を倒さなくてはいけないということですね」

「そういうことだ」


骨竜とさほど変わらない巨躯の光龍は、主である徹の指示に従って、イリスに危害を加えようとしたかなめを睥睨した。


「いいでしょう。あなた方を倒した後……」

かなめは祈りを捧げるように両手を絡ませて告げる。


「蜜風望、そして、椎音愛梨。女神様の完全な覚醒のために、おまえ達を頂きます」

「……っ」


かなめはあくまでも事実として突きつけてきた。


「やはり、あなた方を倒し、蜜風望と椎音愛梨に協力して頂くためには、実際に明晰夢を体験して頂くしかないようですね」

「……明晰夢か!」


常軌を逸したかなめの申し出に、徹は不穏なものを感じる。


『我が愛しき子よ』


かなめは子守歌のように言葉を紡ぐと、自身の光の魔術のスキルを発動させた。


「「ーーっ!」」


かなめの目の前にいる徹達だけではない。

この部屋全域に、魔方陣のような光が浮かぶ。

それは最上部を目指して浮上している望達さえも含まれている。


「「有、このままじゃ……!」」


先を見据えた望とリノアが表情を曇らせた。


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