「『キャスケット』と『アルティメット・ハーヴェスト』。お兄様を追い詰めただけのことはありますね」
戦況に目を配っていたかなめが不安を端的に言い表す。
「確かに、この部屋の最上部には、この部屋の秘密を解くための鍵があります」
晴れやかな表情さえ浮かべて、かなめはそう告げる。
「でも、あなた方がそれを見つけることは叶いません」
確かな事実を発するかなめの声が、望達の耳朶(じだ)に否応なく突き刺さった。
「何故なら、それは約束されたこと」
かなめの発した言が室内に静かに木霊する。
「美羅様の前では、あなた方の行動は予測済み――」
かなめの言葉が途切れる。
何故ならーー
「その行動も予測済みです!」
「……っ!」
イリスが跳躍し、かなめの不意を突くようなかたちで槍を振るってきたからだ。
「吉乃かなめ。あなたの相手は、私達のはずです!」
「私は蜜風望に用があります。ですが、あなたがその妨害に徹するというのでしたら、相手になりましょう」
かなめが憂いを帯びた眼差しでイリスに視線を向けた途端、金色の光を身に纏った四肢を持つ光龍が立ち塞がる。
「『達』。もちろん、一人じゃないよな」
「なるほど。鶫原徹、そして『アルティメット・ハーヴェスト』が誇るNPC。まずはあなた方を倒さなくてはいけないということですね」
「そういうことだ」
骨竜とさほど変わらない巨躯の光龍は、主である徹の指示に従って、イリスに危害を加えようとしたかなめを睥睨した。
「いいでしょう。あなた方を倒した後……」
かなめは祈りを捧げるように両手を絡ませて告げる。
「蜜風望、そして、椎音愛梨。女神様の完全な覚醒のために、おまえ達を頂きます」
「……っ」
かなめはあくまでも事実として突きつけてきた。
「やはり、あなた方を倒し、蜜風望と椎音愛梨に協力して頂くためには、実際に明晰夢を体験して頂くしかないようですね」
「……明晰夢か!」
常軌を逸したかなめの申し出に、徹は不穏なものを感じる。
『我が愛しき子よ』
かなめは子守歌のように言葉を紡ぐと、自身の光の魔術のスキルを発動させた。
「「ーーっ!」」
かなめの目の前にいる徹達だけではない。
この部屋全域に、魔方陣のような光が浮かぶ。
それは最上部を目指して浮上している望達さえも含まれている。
「「有、このままじゃ……!」」
先を見据えた望とリノアが表情を曇らせた。
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