「吉乃信也から情報を聞き出す手段。いろいろと試してみるしかないよな」
信也から情報を得るのは容易ではない。
だからこそ、徹は敢えてそう結論づける。
あらゆる可能性を拾い集めるしかないと。
「いろいろと試すか。君はどんな手段を用いて吉乃信也から聞き出すつもりだ」
奏良は腕を組み、少しだけ考えた様子をみせる。
「そもそも、吉乃信也が口を割らないから話し合いが難航していたのだろう。君が考えている手段で問いただしても話すとは限らない」
「……おまえ、いつも一言多いぞ」
奏良が非難の眼差しを向けると、徹はきっぱりと異を唱えてみせた。
「だったら、おまえは何か策があるのか?」
「当然だ」
徹が苦々しいとした顔で聞くと、奏良は満足げに応える。
それを皮切りに、徹と奏良は競い合うようにして様々な対策を講じた。
しかし、二人が各々の手段で突き詰めるものの、信也はそれ以上のことを語らない。
「君が挙げた手段は一つも成果をもたらさないじゃないか」
「それはおまえもだろう」
徹と奏良の間に再び、険呑な空気が広がる。
勘案するものの、信也から情報を聞き出す方法が全く見通せない状況であった。
「これ以上の収穫はなさそうだな」
「特殊スキルのことも分からすじまいだったね」
望が咄嗟にそう言ってため息を吐くと、花音は少し残念そうに望を見上げる。
「特殊スキルか」
望は瞬きを繰り返しながら、愛梨としての記憶を思い出してつぶやいた。
「特殊スキルは仮想世界のみならず、現実世界をも干渉する力だ。だけど、俺も愛梨も、自身の特殊スキルについてはよく分からない点が多いからな」
不可解な謎を前にして、望は思い悩むように両手を伸ばした。
特殊スキルの秘密に迫るもの。
それは『レギオン』と『カーラ』が管轄しているダンジョン、もしくは彼らの拠点であるギルドホームに隠されているはずだ。
そして、その候補の中には常軌を逸したNPCであるニコットも含まれていた。
「美羅ちゃんの適合者。リノアちゃんを元に戻したら、他の人が美羅ちゃんの器になるんだね……。手の打ちようがないよ……」
花音は途方にくれたようにつぶやくと、リノアの安否を気遣う。
「リノアちゃん、意識を失ったままだけど、大丈夫かな」
赤みがかかった髪を揺らした花音が顔を俯かせて声を震わせる。
すると、望はそんな彼女の気持ちを汲み取ったのか、頬を撫でながら照れくさそうにぽつりとつぶやいた。
「花音。情報の整理がついたら、リノアに会いにいくからな」
「……うん。望くん、ありがとう」
顔を上げた花音は胸のつかえが取れたように微笑む。
望は深呼吸をすると、これからの戦いに向けて、身体をほぐして両手を伸ばした。
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