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留菜マナ
留菜マナ

第ニ百八十六話 錯落たる幻想①

公開日時: 2021年7月1日(木) 16:30
文字数:1,383

「……すぐに追いかけてくるのかな?」


有の説明に、不安を感じた花音が周辺を警戒していると泡立つような気配を感じ取った。


「お兄ちゃん!」

「妹よ、分かっている」


戦いの予兆を感じ取り、有は新たな転送アイテムを準備し、望達は戦闘体勢に入る。


「残念だが、逃げても意味はない」


尊大な声に視線を向ければ、そこには賢達の姿があった。

有が告げたとおり、賢達『レギオン』は即座に転送アイテムを使って追いかけてきたのだ。

賢は欺瞞に満ちた目で、全てを見据えるように宣言する。


「……言ったはずだ。君達をここで逃がすつもりはないと」

「「……それは」」


あまりにも単刀直入な言明に、望とリノアは言葉に詰まった。


「……なら、俺は、望達の道を切り開くだけだ!」


勇太は一呼吸置くと、目の前の賢へと向かっていく。

起死回生の気合を込めて、賢に天賦のスキルの技を発動させた。


『フェイタル・ドライブ!』


勇太が大きく大剣を振りかぶり、光の刃が波動のように賢へと襲いかかった。

万雷にも似た轟音が響き渡る。


「ーーっ」


迷いのない一閃とともに、勇太の強烈な一撃を受けて、賢は怯んだ。

賢のHPが一気に減少する。

頭に浮かぶ青色のゲージは、半分まで減少していた。

勇太は畳み掛けるように、賢の間合いへと接近する。


「『星詠みの剣』!」


だが、賢が剣を掲げた瞬間、賢の周りに淡い光が纏う。

その瞬間、賢のHPゲージは、あっという間に半分から全快の青色に戻っていた。


「俺の役目は、望とリノア達を守ることだ! 回復するというのなら、回復する暇を与えないくらい、何度でも叩き込んで押し返してやる!」

「なるほど。だが、勇太くん、君にそれが出来るかな」


幾度も繰り出される互いの剣戟。

超高速の攻防を繰り広げながら、賢は勇太の意気込みを感心する。


「やってみせるだけだ!」

「勇太くん、君の気迫は呆れを通り越して、称賛に値する」


賢の美羅のために尽くすその狡猾さと残忍さは、勇太が知る限りでも突出した存在であった。

賢の攻勢が抑えられた隙に、望達は有のもとへ駆け寄った。


「「有、転送アイテムを!」」


望とリノアが焦るように呟いた時だった。

膨大な気配と共に、かなめ達がこの場に現れようとする。

有は即座に転送アイテムを使うために、虚空に掲げた。


「勇太くん、早く!」

「ああ!」


花音の呼び声に、賢との戦闘を切り上げた勇太は望達のもとに移動する。

全員揃った望達が転送アイテムを掲げた有の傍に立つと、地面にうっすらと円の模様が刻まれる。

望達が気づいた時には視界が切り替わり、今度は『サンクチュアリの天空牢』のダンジョンの前にいた。


「すごいね! 今度は『サンクチュアリの天空牢』のダンジョンに来たよ!」


飛行アイテムを使わずに、『サンクチュアリの天空牢』のダンジョンの前に来ていることを確認すると、花音は嬉しそうにはにかんだ。


「妹よ、喜んでいる場合ではない。『レギオン』が来たら再び、転送アイテムを使うぞ」

「でも、お兄ちゃん。『レギオン』は、高位ギルドで私達よりも圧倒的に人数がいるから、豊富に転送アイテムを持っているんじゃないかな?」


花音は、有の作戦に対する懸念を口にする。


「妹よ、俺達が不利な状況なのは分かっている」

「分かっているのなら、逃げる必要性はないと思うが」


有が思考に沈む前に、厳かな声が響いた。

有が視線を向けるとそこには賢達『レギオン』が転送アイテムを用いて現れていた。

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