予測できていた望とリノアの即答には気を払わず、かなめは確かな事実を口にする。
「あなた方が如何に阻止しようとしても、美羅様の真なる力の発動は必ず行われます。その時、あなた方を通して、美羅様の神託が世界に降り注ぎます」
「俺は協力するつもりはない!」
「私は協力するつもりはない!」
望とリノアの断言すらも無視して、かなめは一拍おいて流れるように続ける。
「美羅様の真なる力の発動が成されれば、あなた方の認識も変わります。これは、全て定められた事。世界の安寧のためなのです」
「「ーーっ」」
付け加えられた言葉に込められた感情に、望とリノアは戦慄した。
当然だ。
協力するかどうかについては、既に結論が出ている。
協力しない。
望は何度も、そう答えたはずだ。
「蜜風望、そして、椎音愛梨。美羅様は、あなた方の力を必要としているのです。どうか、美羅様に力をお貸し下さい」
語尾を上げた問いかけのかたちであるはずなのに、かなめは答えを求めていない。
いや、答えは求めているのだ。
ーー協力する。
その決まりきった答えだけを。
「ーーくっ」
「ーーっ」
どうしようもなく不安を煽るかなめの懇願に、望とリノアは焦りと焦燥感を抑えることができずにいた。
「かなめ様、信也様。賢様から、撤退の指示が出ております」
「分かりました。いずれ来(きた)る未来、特殊スキルの使い手達は、私達の手中に入ります。それは今日ではなかった、それだけのことです」
『カーラ』のギルドメンバーからの報告に、かなめはあくまでも理想を口にしながら後退する。
「お兄様、撤退の準備を」
「ああ」
かなめの意思に添って、信也は『カーラ』のギルドメンバー達を集結させた。
『我が愛しき子達よ』
かなめは子守歌のように言葉を紡ぐと、自身の光の魔術のスキルを発動させた。
信也と『カーラ』のメンバー達全員の周りに、魔方陣のような光が浮かぶ。
『撤退致します』
「ま、待て!」
徹が止める暇もなく、かなめ達は魔方陣の光とともに姿を消していった。
「何とかなったか……」
かなめ達が姿を消したことを確認した奏良は、大きく息を吐いた。
奏良はインターフェースを使い、HPが減ったステータスを表示させる。
「わーい! 望くん、お兄ちゃん、奏良くん、プラネットちゃん、勇太くん、リノアちゃん、大勝利!」
「おい、花音!」
「っ……花音!」
これ以上ない満面の笑みを浮かべて、駆け寄ってきた花音が望に抱きついた。
花音の突飛な行動に、望は身動きが取れず、窮地に立たされた気分で息を詰めている。
リノアもまた、望と同じ動作で、戸惑いの色を滲ませていた。
「奏良よ、やったな」
「ああ。『カーラ』が撤退してくれたおかげだ」
有のねぎらいの言葉に、奏良は恐れ入ったように答えた。
高位ギルドの力の片鱗を垣間見たような感覚。
外で足止めをしていた同じ高位ギルドである『アルティメット・ハーヴェスト』の助力と、特殊スキルの力がなかったら対抗する術はなかっただろう。
「奏良よ、回復アイテムだ」
「ああ、やっとこのダンジョンから出られるな」
有から手渡された回復アイテムを呑んだことで、HPが少し回復した奏良は、高位ギルドの底知れない統率力を改めて実感する。
「お兄ちゃん。これから、どうしたらいいのかな?」
「『サンクチュアリの天空牢』のクエストは達成したからな。残りのダンジョンには、特殊スキルの手がかりはないとはいえ、クエストを達成するためには全てを回る必要がある。とにかく、このままギルドに戻るしかないな 」
花音の戸惑いに、有は思案するように視線を巡らせる。
「……今回も手強かったな」
徹は先程の戦闘中に、イリス達、『アルティメット・ハーヴェスト』と合流することが出来なかった事を悔やんでいた。
だが、『サンクチュアリの天空牢』から出れば、イリス達と合流し、転送アイテムを使ってギルドに戻ることができる。
それらを確認している途中で、外で『カーラ』のギルドメンバー達と交戦していたイリスから連絡が入った。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!