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留菜マナ
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第ニ百ニ十八話 久遠の鳥籠⑧

公開日時: 2021年5月4日(火) 16:30
文字数:1,615

予測できていた望とリノアの即答には気を払わず、かなめは確かな事実を口にする。


「あなた方が如何に阻止しようとしても、美羅様の真なる力の発動は必ず行われます。その時、あなた方を通して、美羅様の神託が世界に降り注ぎます」

「俺は協力するつもりはない!」

「私は協力するつもりはない!」


望とリノアの断言すらも無視して、かなめは一拍おいて流れるように続ける。


「美羅様の真なる力の発動が成されれば、あなた方の認識も変わります。これは、全て定められた事。世界の安寧のためなのです」

「「ーーっ」」


付け加えられた言葉に込められた感情に、望とリノアは戦慄した。

当然だ。

協力するかどうかについては、既に結論が出ている。

協力しない。

望は何度も、そう答えたはずだ。


「蜜風望、そして、椎音愛梨。美羅様は、あなた方の力を必要としているのです。どうか、美羅様に力をお貸し下さい」


語尾を上げた問いかけのかたちであるはずなのに、かなめは答えを求めていない。

いや、答えは求めているのだ。

ーー協力する。

その決まりきった答えだけを。


「ーーくっ」

「ーーっ」


どうしようもなく不安を煽るかなめの懇願に、望とリノアは焦りと焦燥感を抑えることができずにいた。


「かなめ様、信也様。賢様から、撤退の指示が出ております」

「分かりました。いずれ来(きた)る未来、特殊スキルの使い手達は、私達の手中に入ります。それは今日ではなかった、それだけのことです」


『カーラ』のギルドメンバーからの報告に、かなめはあくまでも理想を口にしながら後退する。


「お兄様、撤退の準備を」

「ああ」


かなめの意思に添って、信也は『カーラ』のギルドメンバー達を集結させた。


『我が愛しき子達よ』


かなめは子守歌のように言葉を紡ぐと、自身の光の魔術のスキルを発動させた。

信也と『カーラ』のメンバー達全員の周りに、魔方陣のような光が浮かぶ。


『撤退致します』

「ま、待て!」


徹が止める暇もなく、かなめ達は魔方陣の光とともに姿を消していった。






「何とかなったか……」


かなめ達が姿を消したことを確認した奏良は、大きく息を吐いた。

奏良はインターフェースを使い、HPが減ったステータスを表示させる。


「わーい! 望くん、お兄ちゃん、奏良くん、プラネットちゃん、勇太くん、リノアちゃん、大勝利!」

「おい、花音!」

「っ……花音!」


これ以上ない満面の笑みを浮かべて、駆け寄ってきた花音が望に抱きついた。

花音の突飛な行動に、望は身動きが取れず、窮地に立たされた気分で息を詰めている。

リノアもまた、望と同じ動作で、戸惑いの色を滲ませていた。


「奏良よ、やったな」

「ああ。『カーラ』が撤退してくれたおかげだ」


有のねぎらいの言葉に、奏良は恐れ入ったように答えた。

高位ギルドの力の片鱗を垣間見たような感覚。

外で足止めをしていた同じ高位ギルドである『アルティメット・ハーヴェスト』の助力と、特殊スキルの力がなかったら対抗する術はなかっただろう。


「奏良よ、回復アイテムだ」

「ああ、やっとこのダンジョンから出られるな」


有から手渡された回復アイテムを呑んだことで、HPが少し回復した奏良は、高位ギルドの底知れない統率力を改めて実感する。


「お兄ちゃん。これから、どうしたらいいのかな?」

「『サンクチュアリの天空牢』のクエストは達成したからな。残りのダンジョンには、特殊スキルの手がかりはないとはいえ、クエストを達成するためには全てを回る必要がある。とにかく、このままギルドに戻るしかないな 」


花音の戸惑いに、有は思案するように視線を巡らせる。


「……今回も手強かったな」


徹は先程の戦闘中に、イリス達、『アルティメット・ハーヴェスト』と合流することが出来なかった事を悔やんでいた。

だが、『サンクチュアリの天空牢』から出れば、イリス達と合流し、転送アイテムを使ってギルドに戻ることができる。

それらを確認している途中で、外で『カーラ』のギルドメンバー達と交戦していたイリスから連絡が入った。

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