兄と妹とVRMMOゲームと

留菜マナ
留菜マナ

第三百三十八話 此処はサンクチュアリ⑤

公開日時: 2022年4月22日(金) 16:30
文字数:1,712

『強制ログアウト』


当初、強制的な帰還は、システム上の不具合、サーバーの不調から発生した、ただのトラブルかと考えられていた。

しかし、その直後、驚くべきニュースが、ゲーム業界を駆け巡った。


『VRMMOゲームで引き起こされた未知の事象、怪事件の謎』


紘達、『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドメンバー達が調べていた、『レギオン』に関わる組織がおこなったとされる失踪事件。

それは、愛梨と同じ年頃の少女達が、同時期に学校を休んで、家族と一緒に旅行に出かけているという奇妙な一件である。

当初、被害者達が誘拐を完全否定したため、証拠不十分として処理されていた案件だった。

しかし、突如、被害者である少女達と家族が一貫して、その発言を覆した。


「私、誘拐されたの」

「私達、女神様になれなかった……」


被害者である少女達は昏(くら)い瞳を伴い、虚ろな笑みを浮かべて訴える。


「私達、その日は旅行に行っていません」

「どうして、旅行に行ったと思ったのかしら?」


まるで、最初からそう仕組まれていたように、少女達の家族も時を同じくしてそう証言し始めた。

その際、誘拐、監禁をおこなったと示唆された『レギオン』と『カーラ』に関わる者達全てが、警察に身柄を確保され、事情聴取を受けている。

だが、その後、彼らが捕まった警察署を起点として、現実世界は、かなめが見せた明晰夢の世界のように変わり果てていった。


「つまり、あの失踪事件の発覚そのものが、現実世界を変革させる起因になっていたんだな」

「つまり、あの失踪事件の発覚そのものが、現実世界を変革させる起因になっていたのね」


望とリノアは一息つくと、事態の重さを噛みしめる。


「本来なら、美羅の特殊スキルによって、『アルティメット・ハーヴェスト』の者達の助勢は得られないはずだ。だが、僕達は常に彼らの力を借りれる状況にある」

「奏良よ。恐らく、椎音紘は特殊スキルの力を用いて、どんな状況でも戦況を有利に進めるための手筈を踏んでいるのだろう」


奏良の言及に、有は落ち着いた口調で答えた。


「お兄ちゃん。それって、愛梨ちゃんのお兄さんは、美羅ちゃんの特殊スキルと戦っているの?」


有の言葉に反応して、花音がとらえどころのない空気を固形化させる疑問を口にした。


「妹よ、恐らく、そうだろう。その上で今回、俺達が協力申請をしてくる事を待っている節がある」


初めて出会った時のことを想起させるような状況に、有は切羽詰まったような声で告げる。


「この後、この城下町の冒険者ギルドに行けば、吉乃信也に会えるはずだ」

「そのことまで知っているのか?」


紘の静かな決意を込めた声。

付け加えられた言葉に込められた感情に、望達は戦慄した。


「冒険者ギルドに行くかは、君達で決めるといい」


紘の言葉は、望達には額面以上の重みがあった。

信也と接触するのか、否か。

それは次第に、この世界の秘密へと収束していく。


「現実世界を元の状態に戻すためには、美羅の特殊スキルの力を止める必要がある。美羅を消滅させる方法。正直言って八方塞がりな状況だが、『レギオン』と『カーラ』の者を捕らえれば、何か分かるかもしれないからな」

「リノアは、現実世界では『レギオン』と『カーラ』の手の内にある。彼女が敵の手中にある状態で、どこまで『レギオン』と『カーラ』と渡り合えるのか、判断がつかんな」


有の言葉を捕捉するように、奏良は紅茶を口に含むと、疲れたように大きく息を吐いた。


「『レギオン』か、『カーラ』の者を、美羅の情報を引き出すために捕らえるか。可能なら、重要な情報を持ち合わせている吉乃信也辺りを捕らえる事が出来たらいいよな」


徹は考え込む素振りをしてから、改めて望達を見据えた。

そこで、美羅に纏わる話は、一先ず終わりを告げる。


「紘様、貴重なお話をありがとうございます」


立ち上がったプラネットは礼を述べると、徹から提示された残りのダンジョンの情報の数々をデータとして纏めた。


「椎音紘よ。手間を取らせてしまってすまない。徹よ、これからも頼むぞ」

「ああ」


有の期待を込めた眼差しに、徹は照れくさそうに答える。

一通りの話が終わったところで、望達は『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドを出たのだった。

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