「ここまでは順調だ。だが、このまま敵の目を欺けるとは思えない。吉乃かなめと対峙する前に、あの部屋までの道筋を覚える必要があるな」
『レギオン』と『カーラ』を欺くのは容易ではない。
有は密かにインターフェースで表示した『サンクチュアリの天空牢』のマップを視野に入れながら模索する。
もし、ここで望達の不審な行動に気づかれたら一巻の終わりだ。
「慎重にいかないとな」
「慎重にいかないとね」
フロアに出現するモンスター達の突破を滞りなく終え、望達はかなめがいる場所を目指して、さらに下層へと階段を下がっていく。
「うーん。見たことがある場所に出たよ」
背伸びをした影響で、花音の赤みがかかった長い髪が大きく揺れる。
その場所は以前、望達が有達を探し求めて進んだフロアだった。
しばらく先を進んでいると、望達は後方から迫るモンスターの気配を感じ取る。
「進路妨害はさせないよ!」
花音は身を翻しながら、鞭を振るい、目の前に現れたモンスター達を翻弄する。
だが、それはほんのわずか、モンスター達の動きを鈍らせただけで動きを止めるには至らない。
だが、望とリノアがモンスター達めがけて跳躍するのには、それだけで充分だった。
「「はあっ!」」
望とリノアの剣戟により、あっという間に一刀両断されたモンスター達は、その場から姿を消していった。
「俺も負けていられないな!」
望達の戦いぷりが、勇太の心に火を点ける。
露骨な戦意と同時に、勇太は一気にモンスター達との距離を詰めた。
「「はあっ!」」
「行くぜ!」
望とリノア、そして勇太の攻撃が、モンスター達を蹴散らしていく。
さらに有達も加わり、モンスター達は次々と討ち果たされていった。
やがて、全てのモンスター達が消滅する。
「わーい! 大勝利!」
両手を広げた花音が歓喜の声を上げる。
「よし、レベルが上がった!」
勇太はインターフェースを使い、ステータスを表示させると、自身のレベルの上昇と新たなスキル技を覚えたことを確認した。
しかし、勝利した喜びも束の間ーー。
「あの『アルティメット・ハーヴェスト』の手から逃れただけのことはある。だが、これほどの手練れの者が末端のメンバーとは思えないな」
明らかに戦い慣れた望達の動きに、『レギオン』のギルドメンバーは不審な眼差しを向けていた。
「……お兄ちゃん。完全に怪しまれているよ」
「妹よ、挙動不審になっては余計、怪しまれる。このまま、『レギオン』と『カーラ』の者に成り済ますのは釈然としないが、あの部屋に赴くためだ」
「……うん」
有の気遣いを聞いても、花音の表情には明白な悄然と焦燥が滲んだままだった。
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