望は昨日の出来事ーー愛梨としての記憶を思い出しながらつぶやいた。
「昨日、愛梨が狙われたことといい、あの部屋に赴く手段の確保と敵の目を欺く方法を見出だしてから『サンクチュアリの天空牢』に赴いた方がいいよな」
「昨日、愛梨が狙われたことといい、あの部屋に赴く手段の確保と敵の目を欺く方法を見出だしてから『サンクチュアリの天空牢』に赴いた方がいいよね」
不可解な謎を前にして、望とリノアは思い悩むように両手を伸ばした。
有はダンジョンマップを視野に収めると表情を引きしめる。
「望よ。今後の方針についてだが、母さんに一度、ログアウトしてもらって掲示板に偽の情報を提示してもらうつもりだ。そして『メイキングアクセサリー』を用いて、敵陣営に紛れようと思っている」
「「なっ……!」」
有の決定は、望達の理解の範疇を超えた代物だった。
「……なるほど」
奏良は一拍置いて動揺を抑えると、有が口にした言葉を改めて、脳内で咀嚼した。
「『創世のアクリア』のサーバー以外のゲームに関する全ての書き込みを規制する。だが、『創世のアクリア』の掲示板なら、ゲーム内の書き込みはできる。偽の情報を流して、『レギオン』と『カーラ』を混乱させるんだな」
「ああ。現実世界で愛梨を狙ってきたことといい、『レギオン』と『カーラ』は望と愛梨、そしてリノアを手に入れるためなら、もはやどんな手段も厭わないだろう。後手に回っていたら、望達を守ることはできないからな」
奏良の言及に、有は落ち着いた口調で答える。
「でも、お兄ちゃん。お母さんが掲示板に嘘の情報を書き込んでも、『レギオン』と『カーラ』は信じないんじゃないかな?」
「その通りだ、妹よ。恐らく、『レギオン』と『カーラ』は母さんが書き込んだ偽の情報を疑ってくるだろう。だからこそ、書き込む必要がある。『メイキングアクセサリー』を用いて、敵陣営に紛れるためにもな」
花音が声高に疑問を口にすると、有は意味ありげに表情を緩ませた。
「ーーなるほどな! 偽の情報で誘導するんだな!」
「ーーなるほどね! 偽の情報で誘導するんだね!」
「まあ、それが本命だろうな」
掲示板に偽の情報を書き込む真意に触れて、望とリノア、そして奏良は納得したように頷いてみせる。
「敵陣営に紛れ込んでも、上級者プレイヤーには正体を看破されてしまうだろう。だが、それでも書き込む価値はある」
「うん、そうだね!」
有の発案に、花音は両手を広げて歓喜の声を上げた。
「母さん、掲示板の件をお願いしたい」
「掲示板を見るのはプロトタイプ版にログインしている者達だけだからね。ある程度、信憑性の高い情報を書き込んだ方がいいかもしれないね」
有の頼みを受けて、有の母親はインターフェースを使って情報を収集し始めた。
掲示板に偽の書き込みをするために、有の母親が一旦、ログアウトをした後ーー。
望達はギルド内で『メイキングアクセサリー』を用いての作戦決行の機会を窺っていた。
メイキングアクセサリーはイメージした衣装に見た目を変えることができる。
「『レギオン』と『カーラ』のギルドメンバーに扮すれば、あの部屋についての何かしらの情報を掴むことができるかもしれないな」
「『レギオン』と『カーラ』のギルドメンバーに扮すれば、あの部屋についての何かしらの情報を掴むことができるかもしれないね」
「望くん、リノアちゃん、一緒に頑張ろうね」
望とリノアが咄嗟にそう言ってため息を吐くと、花音は元気づけるように望を見上げた。
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