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留菜マナ
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第ニ百五十二話 黄昏時の邂逅⑧

公開日時: 2021年5月28日(金) 16:30
文字数:1,485

花音の意識の奥に浸透していく有の警告。

だが、すぐに状況を思い出して、花音は不安を吐露する。


「お兄ちゃん、あの子が……」

「妹よ、残念ながら、あのモンスターは『レギオン』の手によって操られているようだ」


花音の悲痛な思いを汲み取るように、有は訥々と語った。

有の視線の先では、スライムタイプのモンスターがニコットのもとに歩み寄り、イリスに対して挟み撃ちを仕掛けようとしている。

そこで、望とリノアが核心に迫る疑問を口にした。


「もしかして、『這い寄る水晶帝』で呼び出せる使い魔は、全て『レギオン』によって管理されているのか」

「もしかして、『這い寄る水晶帝』で呼び出せる使い魔は、全て『レギオン』によって管理されているの」

「……そんな」


望とリノアの指摘に目を見張り、息を呑んだ花音は明確に言葉に詰まる。

花音の胸に言いようのない不安が去来していた。


『這い寄る水晶帝』。

それは、少し変わり種の中級者クエストだ。

このダンジョン内では、召喚のスキルを持たない者でも、モンスターなどを使い魔として一体、召喚して呼び出すことができる。

その使い魔をダンジョン内で成長させることが、クエスト達成の条件になっていた。

だが、戦闘は通常どおりに発生するため、使い魔と連携していく必要性が示唆される。


滅多に見ることのないサモナークエスト。

花音がギルドのみんなと和気藹々と話し合い、楽しみにしていたクエストは敵の手の内にあるダンジョンだった。


「ねえ、お兄ちゃん。あの子、助けることはできないかな……」

「妹よ、分かっている。だが、あのモンスターを救うには、『レギオン』と『カーラ』の支配から解放するしか手はないだろう」


花音の痛ましい意見表明に、有は思い悩むように視線を巡らせる。


召喚することができる使い魔は、全て『レギオン』と『カーラ』の息が掛かっているのかーー。


望の思考を読み取ったように、賢は静かに告げる。


「プロトタイプ版のダンジョンは、私達の掌握下にある。もっとも『アルティメット・ハーヴェスト』の管轄下に入っているダンジョンは、容易には解析することは出来なかったがな」

「「解析? まさかーー」」


賢のその反応に、望とリノアは忌々しさを隠さずにつぶやいた。


「ああ。今、現在、このダンジョンで呼び出すことができる使い魔は、全て私達の支配下にある。『アルティメット・ハーヴェスト』の管轄下にあるダンジョン。それは、椎音紘の特殊スキルが及ぶダンジョンだ。だからこそ、プロトタイプ版の開発の要となった信也とかなめには、その妨害を防ぐために『カーラ』のギルドホームに残ってもらっている」


長い沈黙を挟んだ後で、賢は淡々と告げる。


スライムタイプのモンスターの様子がおかしくなったのは、全て『レギオン』と『カーラ』によって仕組まれたものだった。


あまりにも冷酷な事実に、花音は思わず感情を爆発させた。


「あの子に酷いことしないで!」

「あのモンスターに無礼を働いたことは謝罪しよう」


花音の訴えに、賢はあっさりと自分の非を認めた。


「だが、これは特殊スキルの使い手を手中にするための必要な事項だ」


花音の嫌悪の眼差しに、賢は大仰に肩をすくめてみせる。

不可解な空気に侵される中、徹は改めて、これからのことを伝えるために、イリスに連絡を入れた。


「イリス。ニコット達の足止め、このまま頼むな。そして、『アルティメット・ハーヴェスト』のメンバー達を入口付近に集結させてくれないか」

『はい。徹様、了解しました』


徹は通信を切り、神妙な面持ちで入口がある通路を眺める。


「とにかく、ここからが正念場だな」


徹は一呼吸置くと、賢達を油断なく見つめたのだった。

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