花音の意識の奥に浸透していく有の警告。
だが、すぐに状況を思い出して、花音は不安を吐露する。
「お兄ちゃん、あの子が……」
「妹よ、残念ながら、あのモンスターは『レギオン』の手によって操られているようだ」
花音の悲痛な思いを汲み取るように、有は訥々と語った。
有の視線の先では、スライムタイプのモンスターがニコットのもとに歩み寄り、イリスに対して挟み撃ちを仕掛けようとしている。
そこで、望とリノアが核心に迫る疑問を口にした。
「もしかして、『這い寄る水晶帝』で呼び出せる使い魔は、全て『レギオン』によって管理されているのか」
「もしかして、『這い寄る水晶帝』で呼び出せる使い魔は、全て『レギオン』によって管理されているの」
「……そんな」
望とリノアの指摘に目を見張り、息を呑んだ花音は明確に言葉に詰まる。
花音の胸に言いようのない不安が去来していた。
『這い寄る水晶帝』。
それは、少し変わり種の中級者クエストだ。
このダンジョン内では、召喚のスキルを持たない者でも、モンスターなどを使い魔として一体、召喚して呼び出すことができる。
その使い魔をダンジョン内で成長させることが、クエスト達成の条件になっていた。
だが、戦闘は通常どおりに発生するため、使い魔と連携していく必要性が示唆される。
滅多に見ることのないサモナークエスト。
花音がギルドのみんなと和気藹々と話し合い、楽しみにしていたクエストは敵の手の内にあるダンジョンだった。
「ねえ、お兄ちゃん。あの子、助けることはできないかな……」
「妹よ、分かっている。だが、あのモンスターを救うには、『レギオン』と『カーラ』の支配から解放するしか手はないだろう」
花音の痛ましい意見表明に、有は思い悩むように視線を巡らせる。
召喚することができる使い魔は、全て『レギオン』と『カーラ』の息が掛かっているのかーー。
望の思考を読み取ったように、賢は静かに告げる。
「プロトタイプ版のダンジョンは、私達の掌握下にある。もっとも『アルティメット・ハーヴェスト』の管轄下に入っているダンジョンは、容易には解析することは出来なかったがな」
「「解析? まさかーー」」
賢のその反応に、望とリノアは忌々しさを隠さずにつぶやいた。
「ああ。今、現在、このダンジョンで呼び出すことができる使い魔は、全て私達の支配下にある。『アルティメット・ハーヴェスト』の管轄下にあるダンジョン。それは、椎音紘の特殊スキルが及ぶダンジョンだ。だからこそ、プロトタイプ版の開発の要となった信也とかなめには、その妨害を防ぐために『カーラ』のギルドホームに残ってもらっている」
長い沈黙を挟んだ後で、賢は淡々と告げる。
スライムタイプのモンスターの様子がおかしくなったのは、全て『レギオン』と『カーラ』によって仕組まれたものだった。
あまりにも冷酷な事実に、花音は思わず感情を爆発させた。
「あの子に酷いことしないで!」
「あのモンスターに無礼を働いたことは謝罪しよう」
花音の訴えに、賢はあっさりと自分の非を認めた。
「だが、これは特殊スキルの使い手を手中にするための必要な事項だ」
花音の嫌悪の眼差しに、賢は大仰に肩をすくめてみせる。
不可解な空気に侵される中、徹は改めて、これからのことを伝えるために、イリスに連絡を入れた。
「イリス。ニコット達の足止め、このまま頼むな。そして、『アルティメット・ハーヴェスト』のメンバー達を入口付近に集結させてくれないか」
『はい。徹様、了解しました』
徹は通信を切り、神妙な面持ちで入口がある通路を眺める。
「とにかく、ここからが正念場だな」
徹は一呼吸置くと、賢達を油断なく見つめたのだった。
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