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留菜マナ
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第ニ百七十三話 燻る想い⑤

公開日時: 2021年6月18日(金) 16:30
文字数:1,324

「光龍だと!」


突如、具現化した光龍に、『レギオン』のギルドメンバー達が不可解な顔を浮かべて警戒した。


「行け!」


光龍とモンスターが相対する中、徹は光龍を使役する。

徹が呼び出した光龍は、身体を捻らせて『レギオン』のギルドメンバー達へと迫った。


「旋回しろ!」

「くっ……!」


虚を突かれたせいなのか、『レギオン』のギルドメンバー達は回復の手を止め、体勢を立て直す。

そして、徹が動くのを見計らっていたように、『レギオン』のギルドメンバー達のもとに次々と『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドメンバー達が雪崩れ込んできた。

戦況を見据えた賢は、奸計を楽しむように表情を緩ませる。


このままでは埒が明かないな。

一刻も早く、椎音愛梨の特殊スキルの力を発動させて、美羅様を完全な神に等しい存在にする必要がある。

ならば、蜜風望達との戦いに勝利して、事を進めるしかないな。


賢は一拍だけ間を置くと、厳かにーーまるで神事を執り行う祭司の如く言い放った。


「モンスターの特性を解放しろ」


晴れやかな表情さえ浮かべて、賢はそう宣言する。


「「なっ!」」


賢の静かな決意を込めた声。

付け加えられた言葉に込められた感情に、望達は戦慄した。


「はっ!」

「あっ……麻痺の効果が……」


『レギオン』の魔術の使い手達は、即座にモンスターに対して手を翳(かざ)す。

その瞬間、花音が先程、モンスターに施したばかりのスタンが解ける。


「花音、ここは交替だ!」

「花音、ここは交替!」

「……うん。望くん、リノアちゃん、後はお願い!」


再び迫ってきたモンスターの猛攻に、前衛に立った望とリノアは戸惑うように息を呑んだ。

花音は口惜しそうにしながらも、望とリノアと入れ替わる形で有のもとへと駆けていく。

空を仰いでいた賢は一呼吸おいて、異様に強い眼光を望達に向ける。


「さて、そろそろ、仕上げといこうか。君達の最後の健闘を、この場から見守ろう」

「「ーーっ」」


言質を取るような賢の発言。

彼が告げる明白な事実ーー。

望達は麻痺スキルを使える花音を要に、モンスター達へと向き合った。


望達、『キャスケット』。

賢達、『レギオン』。

徹達、『アルティメット・ハーヴェスト』。


湖畔の街、マスカットまでの総力戦ーー。

賢達、『レギオン』ーー高位ギルドの猛攻により、混戦状態に陥りながらも、望達は徹達、『アルティメット・ハーヴェスト』の協力を得て次へと繋げる。


「「花音、お願い!」」

「うん!」


先手を打った望とリノアの合図に、跳躍した花音が鞭を振るい、モンスターの動きを阻んでいった。

だが、さらに『レギオン』のギルドメンバー達が襲いかかってくる。


「奏良よ、頼む」

「言われるまでもない」


有の指示に、奏良は弾丸を素早くリロードし、銃を構えた。

発砲音と弾着の爆発音が派手に響き、『レギオン』のギルドメンバー達の進行を阻止する。


「行かせません!」


プラネットは吹っ切れた言葉ともに、両拳を落ちてきたモンスターに叩きつけた。

それと同時に高濃度のプラズマが走り、爆音が響き渡る。

しかし、プラネットの攻撃を受けても、モンスターのHPを示すゲージは青色のままだった。

その直後、モンスターの背後から、『レギオン』の魔術のスキルの使い手達の火の魔術が降り注ぎ、硝煙が立ち上った。

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