転送石。
それは、街などへの移動を可能するために用いた二つの輝石のことだ。
『転送アイテム』の派生版で、対になった二つの輝石が呼び合う効果を持っている。
『レギオン』と『カーラ』のギルドメンバーの内、誰か一人が輝石の一つを持ち、もう一つをこの部屋に置いておけば、いつでもこの部屋に移動することができるのだろう。
また、何度でも使うことができるため、転送アイテムよりも実用性は高かった。
転送石があるのとないのでは、利便性さが全く違う。
ギルドホームを持ったギルドが、次に欲しいと思うのが転送石だ。
目的の部屋にたどり着いたそのタイミングで、有は改めて、今後のことを切り出した。
「プラネットよ、陽動作戦が功を奏したな」
「はい。今回も転送アイテムなどを使用不可能にする魔術やトラップを、部屋に行くことを阻止するために使ってくる可能性が高かったと思われます」
有の的確な物言いに、プラネットは丁重にこの先の段取りを告げる。
「ここまで順調に事が運んでいます。ただ、ここからは敵地……」
プラネットは部屋を調査する可能性を導き出そうとしてーー。
「恐れる必要はありません」
凛とした声が室内に響き渡った。
紫水晶の瞳に、作り物のような繊細な顔立ち。
『カーラ』のギルドマスターである少女ーーかなめは、無感動にこの場に訪れた望達を見つめる。
「賢様のーー私達の目的は、美羅様の真なる覚醒です」
目を見瞠(みは)る望達は、ただ静かにかなめの次の言葉を待つ。
「特殊スキルの使い手達はいずれ、私達の手中に入ります。ならば、私達はそれに報いる限りです」
かなめは天井を見上げて、静かな声音で告げた。
「お待ちしておりました。この部屋へようこそ。蜜風望」
「「ーーっ」」
かなめが祈りを捧げるように両手を絡ませて告げると、望達は一斉に戦闘態勢に入った。
「蜜風望、そして、椎音愛梨。女神様の完全な覚醒のために、おまえ達を頂きます」
「……っ」
かなめはあくまでも事実として突きつけてきた。
その宣言により、望達が『メイキングアクセサリー』を用いて、敵陣営に紛れ込んでいたことが既に判明していたことを悟る。
「なっ!」
鋭く声を飛ばした勇太は、先程の通路から次々と入ってくるプレイヤー達の存在に気づいた。
室内に入った『レギオン』と『カーラ』のギルドメンバー達全員がレア装備を身につけ、それぞれの武器を望達に突きつけてくる。
この狭い空間だと混戦状態になる。
このまま、ここで戦うのはまずいなーー。
勇太の頭の中で警鐘が鳴った。
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