望達が、ボスモンスターと対峙していた頃ーー。
有達は、魔方陣から召喚されるモンスター達を相手に、勇猛果敢に立ち向かっていた。
「喰らえ!」
奏良は距離を取って、続けざまに四発の銃弾を放った。
弾は寸分違わず、召喚されたモンスター達の頭部に命中する。
「切りがないな!」
奏良はさらに迫り来るモンスター達に合わせて、銃の弾を全方位に連射する。
放たれた弾は、対空砲弾のように相手の攻撃にぶつかり、モンスター達を怯ませた。
激しい撃ち合いの中で、モンスター達は次々と崩れ散るように消えていく。
「よーし、一気に行くよ!」
花音は勢いのまま、鞭を振るい、モンスター達へと接近した。
『クロス・レガシィア!』
今まさに奏良に襲いかかろうとしていたモンスター達に対して、花音が天賦のスキルで間隙を穿つ。
花音の鞭によって、宙釣りになったモンスター達は凄まじい勢いで地面へと叩き付けられた。
モンスター達は崩れ落ち、やがて消滅していく。
「賢様のもとに行かせるな!」
『レギオン』のギルドメンバー達もまた、魔方陣から押し寄せるモンスターの大群の対応に追われていた。
魔方陣によって呼び出されたモンスター達は、千差万別で法則性が何もない。
そもそもレベル帯すら大きく異なっており、中には有達の攻撃が全く効かない鋼鉄並みのモンスターの集団さえも現れた。
「花音様。そのモンスター達は、私達では荷が重いです! 『レギオン』の方々にお任せしましょう!」
「うん!」
プラネットの危険察知に、鞭を振るっていた花音は勇ましく点頭した。
戦いの激化を予感させる戦局の中、ボスモンスターが描いた魔方陣を調べていた有は、その複雑さに目を瞠る。
「妹よ。どうやら、モンスターが召喚される魔方陣を消すには、ボスモンスターを倒すしかないようだ」
「そうなんだね……」
花音は名残惜しそうな表情を浮かべると、望達が対峙しているボスモンスターを見つめた。
「はあっ!」
高く跳躍した勇太の大剣が、ボスモンスターに突き刺さる。
HPを示すゲージは少し減ったものの、いまだに青色のままだ。
「「これで決める!」」
望が構えた蒼の剣から、まばゆい光が収束する。
蒼の剣からは、かってないほどの力が溢れていた。
リノアの持つ剣にも、蒼の剣と同じ効果が発動していた。
「蒼の剣、頼む!」
「蒼の剣、お願い!」
勇太の前に進み出た望とリノアは、それぞれの剣を構える。
流星のような光を放って、ボスモンスターが放った闇の波動を流れるような動きで弾くと、望とリノアは迫ってきたボスモンスターの斬撃をいなした。
「これでどうだ!」
「これでどう!」
望とリノアはそのまま、一瞬でボスモンスターの懐に潜り込み、虹色の剣を横に薙いだ。
光の連なりが、剣筋とともに閃く。
ボスモンスターのHPは、一気に減ったが、倒すまでには至らない。
しかし、勇太は起死回生の気合を込めて、ボスモンスターに天賦のスキルの技を発動させる。
『フェイタル・ドライブ!』
勇太が大きく大剣を振りかぶり、光の刃が波動のようにボスモンスターへと襲いかかった。
万雷にも似た轟音が響き渡る。
「ーーーーガアアッ!」
迷いのない一閃とともに、勇太の強烈な一撃を受けて、ボスモンスターは怯んだ。
ボスモンスターのHPが減少する。
頭に浮かぶ青色のゲージは、瀕死の赤色まで減少していた。
「これなら、何とかーー」
「まだだ」
そう告げる前に先じんで言葉が飛んできて、勇太は口にしかけた言葉を呑み込む。
「油断するな。ボスモンスターの様子が妙だ」
「……」
賢の警告に、勇太は不信感を抱いたまま、表情を険しくする。
「「妙?」」
押し黙ってしまった勇太の代わりに、望とリノアは核心に迫る疑問を口にする。
望が抱いた疑問については、続く賢の説明で徐々に具体性を帯びてきた。
「どうやら、このクエストのボスモンスターは、召喚と分裂特性持ちのようだ。分裂特性は、HPが半分以下になった場合に発動する」
賢は『アイテム生成のスキル』を用いて、ボスモンスターの特性を見極める。
「「分裂?」」
導き出された結論に、望とリノアは不穏なものを感じた。
ボスモンスターの厄介な特性による危惧ーー。
賢が抱いたその予感は見事に的中する。
「「ガアアッーーーー!!」」
賢が告げたとおり、ボスモンスターは面妖な光を放ちながら、二体に分かれていく。
ボスモンスターが分裂するという歪な光景を目の当たりにして、勇太は固唾を呑んだ。
「もう一体、増えたのか!」
「つまり、私達がボスを倒すためには、僅かにダメージを与えた後、そのまま一気に倒してしまうか。もしくは、一撃必殺の攻撃を放って、戦闘不能にするしかなかったということだ」
勇太の驚愕に応えるように、賢は冷静に状況を分析した。
召喚と分裂特性持ちのボスモンスター。
ボスモンスターが持ち合わせる厄介な二つの特性を前にして、賢は論理を促進し、思考をさらに加速させる。
もう一つ、封印を施すスキルを使えば、ボスモンスターは特性を使うことができなくなる。
そうすれば、難なくボスモンスターを討伐することができるだろう。
しかし、この状況は、美羅様の真なる力を発動させる場として相応しいーー。
蜜風望は、そして、勇太くんも、封印を施すスキルやアイテムに関する知識を持ち合わせていないようだからな。
賢はそこまで考えてほくそ笑んだ。
「蜜風望。私達がこの状況を覆すためには、君と椎音愛梨の特殊スキルの力を高めて、美羅様に真の力を発動して頂くしかない」
賢の平坦な声に、望は何も答えられない。
望の頭の中では、ずっと同じ問いが空転していた。
ーーどうすればいい?
ーーどうすれば、この状況を覆すことができるんだ?
「おまえの言うことなんか信用できるか!」
疑念の渦に沈みそうになっていた望の意識を掬(すく)い上げたのは、勇太の剣呑な声だった。
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