兄と妹とVRMMOゲームと

留菜マナ
留菜マナ

第ニ十四話 星焔の共鳴④

公開日時: 2020年11月13日(金) 16:30
文字数:1,484

「奏良よ、待たせたな」

「待たせすぎだ」


ボスモンスターと対峙した有が静かに告げると、攻撃を何とか凌いでいた奏良は苛立たしげに睨みつけた。

そこに、花音と愛梨が申し訳なさそうに有達の元へ駆け寄ってくる。


「奏良くん、お待たせ!」

「その、待たせてごめんなさい」


花音と愛梨の言葉に、奏良は一転して柔和な笑みを浮かべた。


「問題ない。愛梨を守ることが、僕の使命だ」

「……えっ?」


奏良の即座の切り返しに、愛梨はきょとんとした顔で目を瞬かせる。

その様子をよそに、花音は周囲を窺うようにしてから、こそっと小声で愛梨につぶやいた。


「岩波奏良くん、私達の仲間だよ」

「奏良くん……?」

「ーーっ!」


愛梨に名前を呼ばれて、奏良は不意を突かれたように顔を硬直させる。


「有、しばらく、ボスモンスターの相手をしていてくれないか。僕はもう少し、愛梨と話をしたい」

「奏良よ。俺一人で、ボスモンスターの相手は無理だぞ」


押し殺すような奏良の声に応えるように、杖を構えた有はやれやれと呆れたように眉根を寄せた。


「お兄ちゃん、奏良くん、来るよ!」

「ああ」

「了解した」


花音の叫びと同時に、有と奏良は一斉に散開した。


「愛梨ちゃん、行くよ!」

「うん」


花音は愛梨の手を取り、鞭を伸ばして遺跡の物陰へと誘導する。

その瞬間、飛び込んできたボスモンスターの拳が、先程まで有達がいた場所へと突き刺さる。

それと同時に、砕かれた床の破片が、壁まで吹き飛んだ。


『ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』

「しつこい奴だ」


有達に避けられても、ボスモンスターはなおも奏良に襲いかかる。

奏良はそれを読んでいたように、後ろに跳躍してかわした。

そのタイミングで、有は深々とため息をついて言う。


「愛梨よ、頼む。力を貸してほしい。愛梨の特殊スキルなら、あのボスモンスターを倒せるはずだ」

「ーーなっ!」

「……っ」


有の静かな決意を込めた声。

付け加えられた言葉に込められた感情に、奏良が戦慄して、愛梨は怯えたように花音の背後に隠れる。


「愛梨ちゃん、大丈夫だよ」

「花音、さん」

「花音でいいよ。一緒に頑張ろう」

「……うん」


後ろを振り返った花音が励ますように手を差し伸べると、愛梨は恐る恐るその手を取る。


「……あの、銃の弾、借りてもいい?」

「あ、ああ」


ぎこちなく近づいてきた愛梨の頼みに、奏良は上擦った声で承諾した。


『……仮想概念(アポカリウス)』


愛梨は自身の特殊スキルーー仮想概念(アポカリウス)のスキルを使い、弾に自身のスキルの力を込めていった。

弾の外殻が次々と変色していく。


「奏良くん。上手くいくか、分からないけれど、弾に力を込めてみた」

「愛梨、ありがとう」


奏良は、愛梨から受け取った弾丸を素早くリロードする。


「奏良よ、頼む」

「言われるまでもない」


有の指示に、ボスモンスターから距離を取った奏良は銃を構えた。

発砲音とともに、奏良の放った弾丸がボスモンスターへと向かう。


『グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』


愛梨の特殊スキルが込められた弾は、ボスモンスターを貫通する。

その弾は彗星の如く、虹を纏う光芒と化す。

絶え間なく弾丸が放たれるその光景は、まさに流星群のような輝きを見せる。

あれだけ減らなかったボスモンスターのHPが、目に見えて減っていく。


「何だ、この弾は……! すごい!」


奏良はボスモンスターに向かって、さらに何発もの銃弾を放つ。


『ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』


奏良が放つ流星の弾を前に、ボスモンスターは為す術もない。

やがて、闇を纏ったスケルトンの変異体は、閃光に塗り潰されて、断末魔を上げながらこの世界から消えていった。


読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート