「それにしても、『朽ち果てた黄昏の塔、パラディアム』の調査には、今から行くんだな」
「望くん、塔の調査、頑張ろうね」
剣を構えた望が肩をすくめて、鞭を地面に叩いた花音は喜色満面に張り切る。
有は有言実行とばかりに早速、『朽ち果てた黄昏の塔、パラディアム』の調査へと向かうことにしたのだ。
「相変わらず、クエストの攻略情報は非公開にされているのか。厄介だな」
インターフェースで表示させた要領を得ないクエスト情報に、奏良は不愉快そうに肩を落とす。
「受けるクエスト、決めたんだな」
望達がクエストへの協力要請をしたことで、徹は足早に冒険者ギルドへと赴いた。
「今回、君の出番はない。僕が愛梨を守るからな。ただひたすら、後方でガーゴイル達を翻弄してくれ」
「……おまえ、一言多いぞ」
奏良の言及に、徹は恨めしそうに唇を尖らせる。
望達は徹と合流した後、王都『アルティス』の中央通りに立ち並ぶ店を回り、人数分の飛行アイテムを揃えていく。
「『朽ち果てた黄昏の塔、パラディアム』は、プロトタイプ版ではどうなっているんだろうか」
「飛行アイテム、綺麗だね」
煉瓦造りの様々な店を前にして、望と花音は興味津々な様子で渡り歩いていった。
「ねえ、徹くんが召喚した光龍に乗って飛んでいったら、ガーゴイル達も近づけないじゃないかな?」
「……ふん」
花音が率直な疑問を述べると、奏良は不満そうに目を逸らした。
「それで何とかなるのなら、苦労していない。『朽ち果てた黄昏の塔、パラディアム』に向かうのに、光龍で飛翔していくのは愚策だろう。空を飛ぶモンスターに、頭上から迎撃されては元も子もない」
「もう、奏良くん! 愛梨ちゃんのために、クエスト攻略、頑張ろうよ!」
「……花音。何故、そこで愛梨の名前を出すんだ?」
花音のどこか確かめるような物言いに、奏良は不快そうに顔を歪める。
「マスター。この周辺では、電磁波の発生は感じられません」
望達が準備を整えている間、プラネットは目を閉じて、『レギオン』と『カーラ』による電磁波の妨害がないかを探っていた。
「そうなんだな。塔の外観調査だけとはいえ、何事もなく戻れるといいんだけどな」
インターフェースで表示した時刻を確認しながら、望は顎に手を当てて、真剣な表情で思案する。
「空には、数多くの浮き島が点在しているようだな。その中には、小型のダンジョンも複数あるだろう」
有は準備を終えると、空を見上げて塔までの方角を見定めた。
「プラネットよ、頼む」
「有様、『朽ち果てた黄昏の塔、パラディアム』の位置特定、お任せ下さい」
有の指示に、プラネットは誇らしげに恭しく頭を下げる。
「……っ! 有様、塔は再び、浮上しています」
プラネットが『朽ち果てた黄昏の塔、パラディアム』の位置を探っていると、奇妙な違和感に気がついた。
塔の座標が、点々と動いているのだ。
オリジナル版は、クエストの終了と同時に地上へと降下している。
その塔が、プロトタイプ版では再び、浮上していたことに疑問を抱いたのだ。
「オリジナル版とは、状況が違うのかもしれないな」
プラネットの説明を聞いて、有は悩むように首を傾げる。
「よし、望、奏良、プラネット、妹よ、行くぞ! 『朽ち果てた黄昏の塔、パラディアム』へ!」
「ああ」
「うん!」
有の号令の下、望達は効果を確かめるように飛行アイテムを掲げた。
すると、飛行アイテムが光り、浮力が働いたかのように、望達の身体を上昇させていく。
「このまま、塔に向かうぞ!」
「空を飛ぶのってすごいねー!」
有と花音が大きく身体を動かすと、突き抜けるように空へと駆け上がった。
有達を追って、望達もまた空へと跳躍する。
高積雲を突き抜けると、どこまでも果てがないような青空が、望達の視界一面に広がった。
周辺には、数多くの浮き島が点在しており、そこには複数のダンジョンの姿が見受けられる。
その中に、明らかに異彩を放っている建造物があった。
機能美など全くない灰色の塔。
外敵を拒むように塔の前で待ち構えている、無骨なガーゴイル達。
威風堂々たる朽ち果てた塔が、そこにはあった。
「マスター、モンスターがこちらに向かってきます!」
「俺達が来たことに気づいて、迎撃に赴いたんだな」
プラネットの忠告に、望達は一斉に戦闘態勢に入る。
塔の周りにいたガーゴイルが、何百もの大群をなして、望達に向かってきた。
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