「絶対にリノアを救ってみせる!」
「勇太くん……」
勇太の決意に目を見張り、息を呑んだリノアの両親は、明確に言葉に詰まらせる。
「リノアを元に戻せ!」
勇太は静かな闘志をまとって、大剣を手に地を蹴った。
「それでも挑んでくるか」
同時に賢も仕掛け、剣と大剣がフロアの中央でぶつかる。
勇太が連携攻撃を放てば、賢のキャラは手にした剣で軽々と全ての連撃を受け止める。
だが、勇太は負けじと攻撃をさらに繋いでいく。
それぞれがそれぞれの特性を生かした攻撃。
そして、フェイントを使った天賦のスキルの技。
しかし、勇太の緊密な連携を前にしても、賢は重厚な剣で軽々と対応しきった。
「ーーっ」
完膚なきまで叩き潰すために迎撃態勢に入った賢の攻撃に、HPがわずかの勇太は決め手を決めかねていた。
勇太が賢と一騎討ちをおこなっていた頃、有達は『レギオン』のギルドメンバー達と戦闘を繰り広げていた。
『元素還元!』
有は、『レギオン』の魔術のスキルの使い手達が放った炎の珠に向かって杖を振り下ろした。
有の杖が炎の珠に触れた途端、とてつもない衝撃が周囲を襲った。
炎の珠達が、まるで蛍火のようなほの明るい光を撒き散らし、崩れ落ちるように消滅したのだ。
「炎の珠の寄せ集めでは、トラップアイテムを一つ作るくらいが関の山だな」
有は一仕事終えたように、眩しく輝く杖の先端の宝玉を見る。
『元素復元、覇炎トラップ!』
今度は武器を振り下ろしてきた『レギオン』のギルドメンバー達に向かって、有は再び、杖を振り下ろした。
有の杖が床に触れた途端、空中に炎のトラップシンボルが現れる。
『レギオン』のギルドメンバー達がそれに触れた瞬間、熱き熱波が覆い、行く手を阻む。
「よーし、一気に行くよ!」
花音は跳躍し、『レギオン』のギルドメンバー達へと接近する。
『クロス・リビジョン!』
今まさに有達に襲いかかろうとしていた『レギオン』のギルドメンバー達に対して、花音が天賦のスキルで間隙を穿つ。
花音の鞭に搦(から)め取られた瞬間、鞭状に走った麻痺の痺れによって、『レギオン』のギルドメンバー達は身動きを封じられた。
「逃がしません!」
プラネットは吹っ切れた言葉ともに、両拳を花音の攻撃から逃れた『レギオン』のギルドメンバー達に叩きつけた。
それと同時に高濃度のプラズマが走り、爆音が響き渡る。
「切りがないな」
奏良は威嚇するように、『レギオン』のギルドメンバー達に向けて、連続で発泡する。
風の弾が『レギオン』のギルドメンバー達の身体に衝突し、大きくよろめかせた。
「このままでは勝てないな」
ボスモンスターを見据えながら、奏良は事実を冷静に告げた。
「奏良くん、奥の手とかないの?」
「恐らく、この上の第五十層に、ボスモンスターが潜んでいるはずだ。そこまで行ければ、『レギオン』の注意をボスモンスターに向けられる。混戦状態へと持っていけるだろうな」
花音が恐る恐る尋ねると、奏良は自分と周囲に活を入れるように答える。
有は敵の少ない方向に駆け出すと、リノアと向き合っている望に視線を向けた。
望とリノアという少女によるシンクロ。
敵ギルドに囲まれ、転送アイテムもダンジョン脱出用のアイテムも使用することができない過酷な状況。
今のままでは、埒が明かないな。
この状況を打破するためには、複数のプレイヤー、ギルドで挑む『レイドボス戦』に持ち込むしかないだろう。
一刻の猶予もならない状況の中、有はそう決断する。
「望、奏良、プラネット、妹よ、ボスモンスターがいると思われる第五十層に行くぞ! 望よ、『レギオン』を誘き寄せるために、彼女を連れてきてほしい」
「ああ、分かった」
「うん、分かった」
有の指示に、望は同じ言動を繰り返すリノアの腕を引いて、第五十層に続く階段へと向かった。
次々と、四方八方から『レギオン』のギルドメンバー達が襲いかかってくる。
「行きます!」
裂帛の咆哮とともに、プラネットは力強く地面を蹴り上げた。
「はあっ!」
「ーーくっ!」
気迫の篭ったプラネットの声が響き、行く手を遮る『レギオン』のギルドメンバー達を次々と爆せていく。
「リノア!」
「美羅様!」
勇太と賢の叫びをよそに、望達は一気に突破口を開き、第五十層に向かう。
「最上階に向かうつもりか」
望達が第五十層に向かう事情を察して、賢は忌々しそうにつぶやいた。
大剣を構えた勇太が、賢を油断なく睨み据える。
「最上階?」
「美羅様の真なる力を垣間見ることができるかもしれないな」
賢は虚実をない交ぜにし、知られたら都合の悪いことを伏せながら話を続ける。
「柏原勇太くん、君との勝負はお預けだ。私達は、美羅様のもとに行かねばならない」
「ーーっ」
勇太の戸惑いをよそに、賢は迷いのない足取りで『レギオン』のギルドメンバー達に向き合うと、なんのてらいもなく言った。
「特殊スキルの使い手の動向は全て、美羅様の手中にある。私達もこのまま、最上階へと赴こう」
「はっ」
賢の指示に、『レギオン』のギルドメンバー達は丁重に一礼すると、速やかにその場を後にする。
「ま、待てーー」
勇太は荒い呼吸を無理やり切って、賢達を追いかけようとした。
「勇太くん!」
しかし、そのまま倒れそうになった勇太を、すんでのところでリノアの両親が支える。
「リノアを追いかけないと……」
息も絶え絶えの勇太は、血の気の引いた顔を懸命に奮い立たせた。
その健気さが、リノアの両親の胸を打つ。
『アーク・ライト!』
「……っ!」
リノアの父親は光の魔術を使って、勇太の体力を回復させる。
『お願い、ジズ! 彼に力を与えて!』
それと同時にリノアの母親も、自身の召喚のスキルで小さな精霊を呼び出し、勇太の攻撃力を上げた。
「勇太くん。今更かもしれないが、私達もリノアを救うことに協力させてほしい」
「リノアを助けたいの」
「おじさん、おばさん、ありがとうな」
リノアの両親の懇願に、勇太は嬉しそうに承諾した。
「行くぜ!」
「ああ」
「ええ」
勇太は大剣を柄に戻すと、リノアの両親とともに第五十層を目指して駆け出した。
『望達はこのまま、ボス戦に持ち込むつもりなんだろうな』
そんな彼らの様子を窺っていた徹は、改めて周囲を見渡した。
第四十九層に残った『レギオン』のギルドメンバーの魔術のスキルの使い手達は、今も転送アイテムなどを使用不可能にする魔術を練り上げている。
『俺達は何とかして、転送アイテムを使えるようにしないといけないな』
徹は少し躊躇うようにため息を吐くと、複雑な想いを滲ませる。
『まずは、魔術のスキルの使い手達を止める』
徹が動くのを見計らっていたように、『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドメンバー達が第四十九層へと駆け上がってくる。
全員がレア装備を身につけ、それぞれの武器を『レギオン』のギルドメンバー達に突きつけたのだった。
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