「お兄ちゃん。『氷の結晶』を使ったら、どんなアイテムを作成できるようになるの?」
花音が興味津々の表情で尋ねると、有は意味ありげな表情を浮かべて答える。
「『氷の結晶』を使えば、水中に入れる『潜水アイテム』に、氷属性の飛礫(つぶて)アイテム、そして魔弾アイテムの素材にもなる。もちろん、ポイントに換金することもできるな」
「氷属性の飛礫アイテムに魔弾アイテム、すごいね! 一本釣りの要領で倒したり、『サンクチュアリの天空牢』から脱出できるようになるのかな?」
有の説明に、花音はクエスト達成への意気込みを語った。
氷属性の飛礫アイテムは、氷を飛来させて敵を怯ませる効果がある。
また、魔弾アイテムは、魔力をぶち撒けて、トラップを破壊したり、その効果を消失させるアイテムだ。
信也が仕掛けたトラップ全てを解除できるとは限らないが、少なくともロビーに仕掛けられたトラップを無効化することができるかもしれない。
やがて、有は一呼吸置くと、決意を固めるように前に進み出る。
「妹よ。ここから脱出することは、かなり困難を極めるはずだ!」
「お兄ちゃん?」
狼狽する妹の様子に、有はあえて真剣な口調で続けた。
「恐らく、ロビーに仕掛けられたトラップを解除することが、脱出への近道になりそうだな」
「……有。『サンクチュアリの天空牢』のロビーには、『カーラ』のギルドメンバー達が待ち構えていると考えた方がいいと思う」
有の方針に、奏良は突如、現れたモンスター達を威嚇するように発砲しながら苦言を呈した。
有の表情が硬く強張ったのを見て、奏良は付け加えるように続ける。
「だが、最深部の牢までは、『カーラ』の介入は無さそうだ。ただ、吉乃信也達が待ち構えているロビーに赴く前に何かしらの対策を立てる必要があるな」
「そうだな」
「そうだね」
奏良の疑念に、望とリノアも警戒心を強めた。
「ダンジョンの構造は、吉乃信也達が自由に変えることができるはずだ。『サンクチュアリの天空牢』も例外ではないだろうな」
「ダンジョンの構造は、吉乃信也達が自由に変えることができるはず。『サンクチュアリの天空牢』も例外ではないよね」
望とリノアは、今までの情報を照らし合わせて、状況を掴もうとする。
「有、最深部までは、あとどのくらいだ?」
「もう、間もなくだな」
奏良の疑問を受けて、有はインターフェースで表示した『サンクチュアリの天空牢』のマップを見つめた。
望達は出現するモンスター達を葬りながら、最深部へと目指していく。
望達はモンスターとやり合い、時にやり過ごしながら進んだ。
際限なく出現するモンスター達を、鍔迫り合いで引き付ける。
やがて、目的の牢が望達の視界に入ってきた。
「ここが、最深部の牢ーー」
「待て、妹よ! そこから先は、罠が仕掛けられている!」
杖を構えた有は、最深部へと踏み込もうとしていた花音を呼び止める。
「ーーっ!」
有の制止と同時に、足を踏み入れようとしていた花音は強引に急制動をかけた。
その瞬間、花音の目の前で、凄まじい爆音とともに床が吹き飛んだ。
床の一部が吹き飛んだことで、その直撃を受けた場所には大きな亀裂が入る。
「妹よ。ここから先は、危険な罠が設置されている」
有は警告するように、望達を手で制した。
「『避雷針』。恐らく、『カーラ』のギルドメンバー達が予め、仕掛けていたものだろう。いろいろな場所に仕掛けることができ、その場所に触れた者に一定のダメージとスタン効果を発生させることができるからな」
「えっー! お兄ちゃん、罠があるの!」
それは花音達にとって、全く予想だにしていなかった言葉だった。
「爆破トラップ……!」
色めき立って、勇太は辺りを見回す。
徹もプラネットも、険しい表情で最深部の牢を傾注していた。
「ああ。『避雷針』は、浮遊物が通り過ぎた際にも爆破する危険な代物だ。迂闊に足を踏み入れない方がいいだろう」
有が咳払いをして、落ち着いた口調で説明すると、奏良は身構えていた銃を下ろす。
「爆破か。魔術や遠距離攻撃にも反応するから、厄介だな」
「やっぱり、鞭を伸ばしても反応するのかな」
奏良の宣告に、鞭を地面に打ち立てた花音は不満そうな眼差しを向ける。
だが、すぐに状況を思い出して、花音は興味津々な様子で尋ねた。
「ねえ、お兄ちゃん。『カーラ』のギルドホームの時のように、アイテム生成のスキルを使って、罠を解除することはできないかな?」
「妹よ、時間はかかるが可能だ。その間、出現するモンスター達の相手を頼む!」
「うん!」
有の指示に、花音が勇ましく点頭する。
「なら、罠を全て解除したら、クエスト達成できるね!」
右手をかざした花音は、爛々とした瞳で周囲を見渡した。
「はい。ただ、『サンクチュアリの天空牢』の入口付近に、新たな複数の生命体が出現するのを感知しました」
「『カーラ』が、新たに喚んだ召喚獣か。ここから脱出するのは、骨が折れそうだな」
プラネットの警告に、奏良は不満そうに視線を逸らした。
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