兄と妹とVRMMOゲームと

留菜マナ
留菜マナ

第四十五話 雨が恋しくて②

公開日時: 2020年11月24日(火) 07:00
文字数:1,910

「ペンギン男爵よ。助かった」

「ありがとうございます」


ペンギン男爵の指示に従って、有はクエストを受注する。


「有、花音、望くん、奏良くん。そろそろ時間も遅いし、クエストに挑むのは次の機会にした方がいいね」

「そうだな」

「今回は期間が長いから、別の日に改めるのが妥当だな」


有の母親がインターフェースで表示した時刻に、望と奏良は視線を向ける。

両手を伸ばした花音は興味津々な様子で、有に尋ねた。


「お兄ちゃん、メルサの森って何処にあるの?」

「妹よ。メルサの森は、五大都市の一つ、幻想郷、『アウレリア』の北端にある」


有の想定外の発言に、望は意外そうに首を傾げる。


「幻想郷『アウレリア』か。あの地域のモンスターになると、ボスはやっぱり、空を飛ぶモンスターなのか?」

「ああ、恐らくな。幻想郷『アウレリア』の付近で出現するモンスターや生物は全て、空を飛んでいる。もちろん、魚もだ」

「空飛ぶお魚さんに空飛ぶモンスター、すごいね! 一本釣りの要領で倒せるのかな?」


有の説明に、花音はクエストへの意気込みを語った。


「幻想郷『アウレリア』の一角には、特殊スキルの使い手を狙っている高位ギルドの一つ、『カーラ』がある。空を飛ぶモンスターといい、厄介な場所だな」

「ああ」


奏良の危惧に、有は深々とため息を吐いた。

世界を牛耳る力と謳われ、現実世界をも干渉する力と言われている特殊スキル。

特殊スキルを使える者が、ギルドに所属しているだけで上位ギルドとして認められる。

また、特殊スキルの使い手は、望を含めて三人しかいないため、望自身は常に狙われる立場だった。


「『カーラ』。高位ギルドの中では、新興に当たりますね」

「その通りだ、プラネットよ。『カーラ』は、公式リニューアル前に、上位ギルドから高位ギルドへと上がっている」


プラネットが口にした言葉に、有は同意する。

意外な事実を聞いて、花音は不思議そうに小首を傾げた。


「お兄ちゃん、高位ギルドって、精鋭のプレイヤーばかりがいるんだよね。どうして、望くんや愛梨ちゃんの特殊スキルを狙うのかな?」

「望や愛梨を狙う連中は、力はいくらあっても困らないと思っているのだろう。特に唯一無二のスキルというものは、世界そのものを書き換える力があるようだからな」


花音の懸念に、有はインターフェースを使って、高位ギルドの情報を一つ一つ検索する。


新興に当たる高位ギルド、『カーラ』。

特殊スキルの使い手が二人いる高位ギルド、『アルティメット・ハーヴェスト』。

そして、王都『アルティス』で望を狙ってきた高位ギルド、『レギオン』。


有自身としては、現時点で高位ギルドとやり合うのは避けたかった。

仲間が増えたとはいえ、相手の人数が多すぎて、戦いは泥沼化必至だ。

最悪、望を奪われ、メンバー全員、ゲームオーバーに成りかねない状況に陥ってしまうだろう。

それだけは、何としても防がなければならなかった。

有は腕を組んで考え込む仕草をすると、高位ギルドの情報を物言いたげな瞳で見つめる。


「メルサの森まで迂回するか、悩みどころだな」

「……あの、有様」


思案に暮れていた有を現実に引き戻したのは、躊躇いがちにかけられたプラネットの声だった。


「私も、今回のクエストにご同行させて頂いてもよろしいでしょうか?」

「もちろんだ、プラネットよ」

「ありがとうございます」


有の承諾に、プラネットは一礼すると強気に微笑んでみせる。


「そういえば、プラネットはどんな武器を使うんだ?」

「私は基本、素手で戦います」


望がかろうじてそう聞くと、プラネットは吹っ切れた言葉ともに両拳を壁に叩きつけた。

それと同時に高濃度のプラズマが走り、爆音が響き渡る。

煙が晴れると、壁はクレーター状に窪んでおり、見るも悲惨な状況に陥っていた。


「ギルドの壁が……」

「ギルドの管理の経費といい、今日は損失が多い日だな」


望と奏良が呆気に取られていると、プラネットは誇らしげに恭しく頭を下げた。


「マスター、いかがでしょうか?」

「いや、その前に、ギルドの被害額の方が問題だな」

「……っ。も、申し訳ございません」


望の指摘に目を見張り、息を呑んだプラネットは、明確に言葉に詰まらせた後、焦ったように謝罪する。


「NPCはスキルを使えないとはいえ、この威力、戦力として申し分ないな」

「プラネットちゃん、すごーい!」


有の発言に同意するように、花音は両手を広げて歓喜の声を上げた。


「すごくない……」


壁の亀裂から入ってくる風に晒されながら、望はげんなりとした表情で肩を落とす。

その後、ギルドの壁の修復は、有に雇われたNPCの作業員達によって、速やかに取り行われた。

一悶着ありながらも、新たな目的を前にして、望達は決意を新たにするのだった。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート