「よし、妹よ。水中を探索するぞ!」
「うん!」
花音は、泡を有が向いている方向に移動させた。
目印になりそうなものが何もない湖底で、有が示す方向だけを頼りに進んでいく。
「水の中ってすごいねー!」
花音が両手を泳ぐようにひらめかせて、水を得た魚のように目を輝かせる。
その様子を傍目に、有は早々に切り出した。
「湖には、モンスターがいるはずだ。オリジナル版との違いを把握する必要があるな」
「しらみつぶしで行っているとはいえ、危険なことには変わりないからな」
有の警告に、徹は警戒するように視線を巡らせる。
噂をすれば影。
望達の目の前に現れたのは、獰猛そうなヒレのついた魚のモンスターの群れだった。
魚のモンスターが牙を剥いて、水面から望へと弧を描くように飛び跳ねる。
「くっ!」
「ーーっ!」
望とリノアは先導しながら、目の前に迫ってくる魚のモンスター達を屠っていった。
それでも四方八方で、無数の魚のモンスター達が縦横無尽に飛び跳ねている。
獲物を狙うように飛び上がり、少しずつ疲弊させていくつもりなのだろう。
「やっぱり、水中だとやりにくいな」
「やっぱり、水中だとやりにくいね」
望とリノアは標的を切り替え、剣を構え直す。
狙うべきは、残りの数匹のモンスターだったのだが、望を飛び越えるようにヒレを羽ばたかせ、奏良へと迫り寄る。
「貫け、『エアリアル・アロー!』」
奏良が唱えると、無数の風の矢が一斉に奏良へと迫ろうとしていたモンスター達へと襲いかかる。
モンスター達は湖底に伏すと、ヒレを動かしながら消えていった。
「よし、行くよ!」
花音は身を翻しながら、鞭を振るい、周囲の魚のモンスター達を翻弄する。
状況の苛烈さから逃走しようとしたモンスター達を畳み掛けるように、杖を構えた有は一歩足を踏み出した。
『元素還元!』
有は、珊瑚へと避難したモンスター達を牽制するように杖を振り下ろす。
有の杖が珊瑚に触れた途端、とてつもない衝撃が周囲を襲った。
珊瑚の一つが、まるで蛍火のようなほの明るい光を撒き散らし、崩れ落ちるように消滅したのだ。
珊瑚が消えたことで、支えを失ったモンスター達は次々と湖底へと落ちていく。
「逃がしません!」
プラネットは吹っ切れた言葉ともに、両拳を落ちてきたモンスター達に叩きつけた。
それと同時に高濃度のプラズマが走り、爆音が響き渡る。
煙が晴れると、モンスター達は全て、焼き尽くされたように消滅していった。
『フェイタル・レジェンド!』
跳躍した勇太は大剣を構え、大技をぶちかました。
勇太の放った天賦のスキルによる波動が、魚のモンスター達を襲う。
魚のモンスター達は崩れ落ち、やがて消滅していく。
「俺の出番、なかったな」
あっさりと魚のモンスター達を全滅させてみせた望達の姿を見て、徹は感嘆の吐息を漏らす。
モンスター達の襲撃の後、有は改めて、口火を切った。
「やはり、オリジナル版とは勝手が違うようだな」
「……プロトタイプ版の水中には、僕達の知らない未知のダンジョンも多く存在していそうだな」
状況説明を欲する有の言葉を受けて、奏良はもはや諦めたように続ける。
「有、潜水アイテムの効果はどのくらい続くんだ?」
「まだ、しばらくの間は大丈夫だ」
奏良の懸念に、有は探りを入れるように視線を周囲に飛ばす。
「望くん、すごいね!」
花音は目を瞠ったまま、そこら辺で泳ぐ普通の魚の群れを追っていた。
時折、魚の群れに紛れて、一緒に舞い泳ぐ。
「ああ、すごいな」
「うん、すごいね」
望とリノアが水を蹴ると、水中を進んでいった。
空中ほどではないが、それでも水中で戦うための目処はついてきた。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!