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留菜マナ
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第三百三十ニ話 芳香のつむじ風⑦

公開日時: 2022年3月11日(金) 16:30
文字数:1,632

「行くぞ! 王都、『アルティス』へ!」

「うん!」


有の決意表明に、花音が嬉しそうに駆け寄る。

望達が転送アイテムを掲げた有の傍に立つと、地面にうっすらと円の模様が刻まれる。

望達が気づいた時には視界が切り替わり、王都、『アルティス』の城下町の門前にいた。


王都、『アルティス』の城下町。

そこは望達のギルドがある湖畔の街、マスカットより、はるかに大きな都だった。

煉瓦造りの建物が並び、中央の大通りを馬車が進んでいく。

望は視線を向けた先には、警備が牽かれた厳格な門と美しき白亜の塔が見渡せる。

王都にそびえる白亜の塔ーーそれが『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドホームだった。


「王都、『アルティス』の城下町には、多くの人が集っているな」

「王都、『アルティス』の城下町には、多くの人が集っているね」


望とリノアは活気溢れる町並みに感嘆の吐息を零す。


「高位ギルドである『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドメンバーは多いからな」


『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドメンバー達の合図で馬車が動き出すのを、有はまっすぐな瞳で追いかける。


「すごい人だな」

「すごい人だね」


望達は『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドホームに赴くために、賑わいのある通りを沿って歩を進めていた。

城下町を警護する『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドメンバー達の厳戒態勢が引かれている場所なら、望と愛梨の特殊スキルを狙う襲撃者達にすぐに対応できると判断したからだ。

先頭を歩いていた花音は、興味津々な様子で王都にそびえる白亜の塔ーー『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドへと視線を向けた。


五大都市の一つであり、ログインしている高位ギルド『アルティメット・ハーヴェスト』の拠点の街でもあるためか、プロトタイプ版でも大勢の人で賑わい、プレイヤー達の行き来も激しかった。

煉瓦造りの様々な店を前にして、花音は興味津々な様子で歩いていく。


「ねえ、お兄ちゃん。今回も馬車で、『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドホームに行くんだよね?」

「その通りだ、妹よ。以前と同じように馬車に乗って、ギルドホームに向かうつもりだ」


花音の疑問に、有は少し逡巡してから答えた。

その予想外な発言に、花音は信じられないと言わんばかりに両手を広げる。


「お兄ちゃん。今回も馬車に乗ったまま、『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドホームの中に入れるのかな?」

「今回は、ダンジョン同時調査の件と、望と愛梨を護るための重要な案件だ。恐らく、入ることができるだろう」


花音が興味津々の表情で尋ねると、有はきっぱりと答える。

望達は中央の大通りを、馬車が進んでいく姿を見留めた。


「馬車に乗った場合でも、検問はありそうだな」

「馬車に乗った場合でも、検問はありそうだね」


インターフェースで表示した時刻を確認しながら、望とリノアは顎に手を当てて、真剣な表情で思案する。

望達は準備を終えると早速、冒険者ギルドに立ち寄り、馬車に乗ることにした。

クエストを受注したり、馬車を手配するためには、基本、自身のギルドか、冒険者ギルドで行う必要がある。


「『キャスケット』のギルドマスター、西村有だ。椎音紘と今後のことで話をしたいため、『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドホームに行きたい」

「『キャスケット』の皆様、お待ちしておりました。こちらへどうぞ」

「ああ」


有が宣言すると、NPCの受付は丁重に頭を下げた。


「ギルドホームまで馬車に乗るのか」

「ギルドホームまで馬車に乗るのね」


望とリノアが緊張した面持ちで告げる。


「わーい! 街中で馬車に乗れるよ!」

「毎回、大げさな歓迎だな」


花音が歓声を上げると、奏良は持っている銃を悲しげに揺らして肩をすくめる。


「こちらが、皆様の馬車になります」


NPCの御者に案内されて、望達は馬車に乗り込んだ。

NPCの御者の手引きにより、馬車が動き始める。

そして、望達は目的地の『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドホームへと向かったのだった。

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