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留菜マナ
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第百五十三話 追憶のハーバリウム⑥

公開日時: 2021年2月18日(木) 16:30
文字数:1,669

「くっ!」


望は先導しながら、目の前に迫ってくるガーゴイル達を屠っていった。


「やっぱり、数が多いと厄介だな」


望は標的を切り替え、剣を構え直す。

狙うべきは、敵の密集地点だったのだが、突撃しようとするとバランスを崩して空中を蛇行してしまう。


「……っ、難しいな」


なかなか空中戦に慣れず、望は悪戦苦闘していた。


「貫け、『エアリアル・アロー!』」


奏良が唱えると、無数の風の矢がガーゴイル達へと襲いかかる。

ガーゴイル達は地面に落下すると、羽を動かしながら消えていった。


「よし、行くよ!」


花音は身を翻しながら、鞭を振るい、周囲の空を飛ぶガーゴイル達を翻弄する。

状況の苛烈さから離脱しようとしたガーゴイル達を畳み掛けるように、杖を構えた有は一際強く鋼を蹴り上げた。


『元素還元!』


有は、ガーゴイル達を牽制するように杖を振り下ろす。

有の杖がガーゴイルに触れた途端、とてつもない衝撃が周囲を襲った。

ガーゴイルの羽が、まるで蛍火のようなほの明るい光を撒き散らし、崩れ落ちるように消滅したのだ。

羽が消えたことで、支えを失ったガーゴイル達は次々と地面へと落下していく。


「ここから、先に行かせて頂きます!」


プラネットは吹っ切れた言葉ともに、両拳を迫ってきたガーゴイル達に叩きつけた。

それと同時に高濃度のプラズマが走り、爆音が響き渡る。

煙が晴れると、ガーゴイル達は全て、焼き尽くされたように消滅していった。


「はあっ!」


高く飛翔した勇太の大剣が、ガーゴイルの顎に突き刺さった。

ガーゴイルは崩れ落ち、やがて消滅していく。

しかし、反撃とばかりに、ガーゴイル達は勇太に襲い掛かってくる。


「ーーっ」


ガーゴイル達の攻撃を、勇太は紙一重で避ける。


「……相変わらず、多いな」


体勢を立て直した勇太は、虚を突かれたように息を呑んだ。


「切りがないな」


奏良は威嚇するように、ガーゴイル達に向けて、連続で発泡する。

風の弾がガーゴイル達の顔面に衝突し、大きくよろめかせた。


「よーし、一気に行くよ!」


花音は勢いのまま、鞭を振るい、ガーゴイル達へと接近した。


『クロス・レガシィア!』


今まさに奏良に襲いかかろうとしていたガーゴイル達に対して、花音が天賦のスキルで間隙を穿つ。

花音の鞭によって、宙釣りになったガーゴイル達は凄まじい勢いで地面へと叩き付けられた。

さらに追い打ちとばかりに、降り立った花音は鞭を振るい、何度も打ち据える。


『フェイタル・レジェンド!』


宙を蹴り、一気に加速した勇太は大剣を構え、大技をぶちかました。

勇太の放った天賦のスキルによる波動が、ガーゴイル達を襲う。

ガーゴイル達は次々と消滅していく。


「本当に数が多いな」


望達はまるで競い合うように、群がるガーゴイルの集団を一刀の下にねじ伏せていった。

しかし、相手は何百もの大群だ。

全てを相手にしていては、塔を調査することは不可能になってしまうだろう。


「どう対処すればいいんだ?」


望が思案に暮れていたその時、背後から聞き覚えのある声が轟いた。


『ーー我が声に従え、光龍、ブラッド・ヴェイン!』

「ーーなっ!」


望の驚愕と同時に、望達の目の前に光龍が現れる。

金色の光を身に纏った四肢を持つ光龍。

巨躯の光龍は、主である徹の指示に従って、望達に危害を加えようとしたガーゴイル達を睥睨した。

突如、具現化した光龍を前にして、ガーゴイル達が警戒する。


「行け!」


光龍とガーゴイル達が相対する中、徹は光龍を使役する。

徹が呼び出した光龍は、身体を捻らせてガーゴイル達へと迫った。

虚を突かれたせいなのか、ガーゴイル達は体勢を立て直すこともできずにまともにその一撃を喰らう。

ガーゴイル達は一斉に崩れ落ち、やがて消滅していく。


「望、奏良、プラネット、勇太、そして妹よ。徹がガーゴイル達を引き付けている間に、塔の調査に向かうぞ!」

「ああ、分かった」

「はい」

「……何故、あいつは良いところを取っていくんだ」


有の指示に、望達は花音の後を追い、塔の入口へと降り立った。


「はあっ!」


望は剣を一閃すると、入口付近で待ち構えていたガーゴイル達が吹き飛ぶ。

その隙に、有達は塔の調査を開始した。

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