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留菜マナ
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第ニ百四十三話 そして、その日まで君を愛する⑦

公開日時: 2021年5月19日(水) 16:30
文字数:1,691

勇太達が外観調査と『アメジスト』の素材の収集を行っている最中、望達は使い魔を呼び出すためにフロア周辺を探索していた。


「ここで、使い魔を呼び出せるのか?」

「ここで、使い魔を呼び出せるの?」

「望くん、リノアちゃん、一緒に頑張ろうね」


剣を構えた望とリノアが肩をすくめて、鞭を地面に叩いた花音は喜色満面に張り切る。

だが、花音はすぐに思い出したように唸った。


「でも、どんな使い魔にしたらいいのかな?」


花音は呼び出す使い魔のことを思い、思考を巡らせる。


「花音はどんな使い魔を想定していたんだ?」

「花音はどんな使い魔を想定していたの?」

「可愛い使い魔を呼び出したいと思っていたの」


望とリノアの問い掛けに、花音は両手を広げて笑顔を咲き誇らせた。


「花音らしいな。でも、もっと具体的な使い魔をイメージしような」

「花音らしいね。でも、もっと具体的な使い魔をイメージしようね」

「イメージ……」


望とリノアの助言に、花音はインターフェースを使って、『創世のアクリア』の情報を一つ一つ検索した。

やがて、モンスターの欄を索引して、 目を輝かせる。


「望くん、リノアちゃん、スライムタイプのモンスターはどうかな?」

「いいんじゃないか」

「いいんじゃない」


喜び勇んだ花音の発案に、望とリノアは苦笑する。

花音は先程、見たスライムタイプのモンスターを脳裏に浮かべ、意識を集中した。

やがて、目の前に動き回るスライムの気配を捉える。


「あっ……」


花音が目を開けると、そこにはスライムタイプのモンスターが現出していた。

まるで懐ついてるように、花音の周囲を跳び跳ねている。

スライムタイプのモンスターの頭上には、HPを示す、青色のゲージが浮いている。

丸くて愛嬌のある顔立ち、グミのような柔らかくて弾力のある質感でありながら、その攻撃方法である体当たりは、ゲームを始めたばかりのプレイヤーには脅威だ。


「暫くの間、よろしくね」


屈んだ花音が優しく撫でると、スライムタイプのモンスターは勇み立つ。


「有、このダンジョンには特に変わったところはないみたいだ。対象のモンスターから、『アメジスト』の素材を回収しよう」

「奏良よ、分かっている」


奏良の懸念に、有はこの状況を少しでも早く改善すべく思考を巡らせる。

闇雲にモンスターの捜索を続けても、他のモンスター達を迎撃している奏良達の負担が大きくなるだけだ。


肝心のモンスターはいつ出てくる?


有が頭を悩ませても、思考の方向性はなかなか定まりそうになかった。


「「ーーっ」」


その時、背後に妙な胸騒ぎを感じた望とリノアは、気配を感じたダンジョンの奥を振り返った。


「「あれは……!」」


それを見た望とリノアの心中には、有が感じたものとは全く異なる緊張が走る。


「着地、何とか成功しました!」


ダンジョンのフロアに舞い降りてきたのは、ツインテールを揺らした幼い少女だった。

小さくも整った顔立ちに、薄い色彩のワンピースに身を包んでいる。

見た目は、どこにでもいるような普通の少女だった。

だが、身に覚えのあるその姿は、何度も肌で感じた警鐘。

望達にとっては、決して見間違うはずのない人物だった。


「ではでは、ニコットはこのまま、蜜風望達の監視を続行します」

「「監視……?」」


無邪気に嗤う少女ーーニコットの発言を聞いて、望とリノアは嫌な予感がした。

しかし、望達の驚愕には気づかずに、ニコットは淡々と攻撃態勢へと移る。


「そのための妨害対象を排除します」

「それは、こちらの台詞です。今すぐ、ここから立ち去りなさい」

「ニコットはこのまま、指令を続行します」


ニコットは目の前の彼女と意見を交わしながら、常軌を逸した高さで宙を舞い、今まさに相手の頭上から攻撃を仕掛けようとしていた。

信じられない機敏さと常識外れの跳躍力。

二つの影が交錯する度に、轟音のような音が響き、閃光が走る。

高位ギルド『レギオン』に所属する自律型AIを持つNPCの少女ーーニコット。

ニコットに相対する相手は、望達の護衛に当たっていた『アルティメット・ハーヴェスト』が管理するNPCの少女ーーイリス。

ニコットとイリス。

望達が目撃しているのは紛れもなく、NPC同士の苛烈な戦いだった。

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