勇太達が外観調査と『アメジスト』の素材の収集を行っている最中、望達は使い魔を呼び出すためにフロア周辺を探索していた。
「ここで、使い魔を呼び出せるのか?」
「ここで、使い魔を呼び出せるの?」
「望くん、リノアちゃん、一緒に頑張ろうね」
剣を構えた望とリノアが肩をすくめて、鞭を地面に叩いた花音は喜色満面に張り切る。
だが、花音はすぐに思い出したように唸った。
「でも、どんな使い魔にしたらいいのかな?」
花音は呼び出す使い魔のことを思い、思考を巡らせる。
「花音はどんな使い魔を想定していたんだ?」
「花音はどんな使い魔を想定していたの?」
「可愛い使い魔を呼び出したいと思っていたの」
望とリノアの問い掛けに、花音は両手を広げて笑顔を咲き誇らせた。
「花音らしいな。でも、もっと具体的な使い魔をイメージしような」
「花音らしいね。でも、もっと具体的な使い魔をイメージしようね」
「イメージ……」
望とリノアの助言に、花音はインターフェースを使って、『創世のアクリア』の情報を一つ一つ検索した。
やがて、モンスターの欄を索引して、 目を輝かせる。
「望くん、リノアちゃん、スライムタイプのモンスターはどうかな?」
「いいんじゃないか」
「いいんじゃない」
喜び勇んだ花音の発案に、望とリノアは苦笑する。
花音は先程、見たスライムタイプのモンスターを脳裏に浮かべ、意識を集中した。
やがて、目の前に動き回るスライムの気配を捉える。
「あっ……」
花音が目を開けると、そこにはスライムタイプのモンスターが現出していた。
まるで懐ついてるように、花音の周囲を跳び跳ねている。
スライムタイプのモンスターの頭上には、HPを示す、青色のゲージが浮いている。
丸くて愛嬌のある顔立ち、グミのような柔らかくて弾力のある質感でありながら、その攻撃方法である体当たりは、ゲームを始めたばかりのプレイヤーには脅威だ。
「暫くの間、よろしくね」
屈んだ花音が優しく撫でると、スライムタイプのモンスターは勇み立つ。
「有、このダンジョンには特に変わったところはないみたいだ。対象のモンスターから、『アメジスト』の素材を回収しよう」
「奏良よ、分かっている」
奏良の懸念に、有はこの状況を少しでも早く改善すべく思考を巡らせる。
闇雲にモンスターの捜索を続けても、他のモンスター達を迎撃している奏良達の負担が大きくなるだけだ。
肝心のモンスターはいつ出てくる?
有が頭を悩ませても、思考の方向性はなかなか定まりそうになかった。
「「ーーっ」」
その時、背後に妙な胸騒ぎを感じた望とリノアは、気配を感じたダンジョンの奥を振り返った。
「「あれは……!」」
それを見た望とリノアの心中には、有が感じたものとは全く異なる緊張が走る。
「着地、何とか成功しました!」
ダンジョンのフロアに舞い降りてきたのは、ツインテールを揺らした幼い少女だった。
小さくも整った顔立ちに、薄い色彩のワンピースに身を包んでいる。
見た目は、どこにでもいるような普通の少女だった。
だが、身に覚えのあるその姿は、何度も肌で感じた警鐘。
望達にとっては、決して見間違うはずのない人物だった。
「ではでは、ニコットはこのまま、蜜風望達の監視を続行します」
「「監視……?」」
無邪気に嗤う少女ーーニコットの発言を聞いて、望とリノアは嫌な予感がした。
しかし、望達の驚愕には気づかずに、ニコットは淡々と攻撃態勢へと移る。
「そのための妨害対象を排除します」
「それは、こちらの台詞です。今すぐ、ここから立ち去りなさい」
「ニコットはこのまま、指令を続行します」
ニコットは目の前の彼女と意見を交わしながら、常軌を逸した高さで宙を舞い、今まさに相手の頭上から攻撃を仕掛けようとしていた。
信じられない機敏さと常識外れの跳躍力。
二つの影が交錯する度に、轟音のような音が響き、閃光が走る。
高位ギルド『レギオン』に所属する自律型AIを持つNPCの少女ーーニコット。
ニコットに相対する相手は、望達の護衛に当たっていた『アルティメット・ハーヴェスト』が管理するNPCの少女ーーイリス。
ニコットとイリス。
望達が目撃しているのは紛れもなく、NPC同士の苛烈な戦いだった。
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