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留菜マナ
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第百六十七話 君に叶わぬ恋をしている③

公開日時: 2021年3月4日(木) 16:30
文字数:1,504

『サンクチュアリの天空牢』。

このダンジョンには、初心者が中級者へと上がるために必要なものが揃っている。

敵の強さ、装備、対応法、戦術。

まさに登竜門とも言える場所だ。

牢獄に閉じ込められているNPCの少女を救出することが目的となる。

そして、空に浮かぶ雲の上に建造された牢獄のため、何かしらの方法で飛翔していく必要があった。


「NPCの少女? どんな方なのでしょうか?」

「プロトタイプ版で、新たに作成されたダンジョンに捕らえられているNPCの少女か。何だか引っかかるな……」


探りを入れるようなプラネットの疑問に、勇太の顔が強張った。

勇太の心に言い知れない不安が募る。


ダンジョンの牢に囚われているNPCの少女ーー。


その境遇が、『レギオン』と『カーラ』によって囚われているリノアと重なった。


「母さん。このダンジョンのクエスト情報を知りたい」

「恐らく、中級者用のクエストだろうね」


有の要望に、有の母親は可視化したそのクエストの名に触れる。

その瞬間、望達の目の前には、目的のクエストの詳細が明示された。


『サンクチュアリの天空牢に眠る少女の救出』


・成功条件

 NPCの少女の救出

・目的地

 サンクチュアリの天空牢

・受注条件

 特になし

・報酬

 10000ポイント、氷の結晶5個


「こちらも、報酬で氷の結晶が手に入るのか」

「『シャングリ・ラの鍾乳洞』の分と合わせて、全部で6個、氷の結晶が手に入るんだね」


意外な報酬を見て、望と花音は呆気に取られる。


「中級者向けのクエストの方が、手に入る氷の結晶の数が多いな」

「望、奏良、妹よ。それだけ、ダンジョンの構造に差があるのだろう」


奏良が冷静に状況を分析していると、有は即座にインターフェースを操作して、二つのダンジョンの構造を見比べた。


「よし、今日は、この二つのクエストとダンジョンの調査を行うぞ!」

「ああ」

「うん」

「近場の調査が妥当だろうな」


有の方針に、望と花音が頷き、奏良は渋い顔で承諾する。

有は既に受けている『シャングリ・ラの鍾乳洞』のクエストとともに、『サンクチュアリの天空牢』のクエストも受注した。

目的地が定まった望達は、最初のダンジョンである『シャングリ・ラの鍾乳洞』へと向かったのだった。






「寒いね」


花音は、まるで極寒の地へと訪れたように身震いする。

花音の視界の先には、凛烈さをはらむ済んだ青空と、雪化粧を施した氷の洞窟があった。

だが、『創世のアクリア』のプロトタイプ版には、体感的に寒いと感じるようなシステムはない。


「この辺り一帯は、冬景色だからな。でも、ゲームの中だから、実際は寒くないだろう」


花音の言い分に、望は少し逡巡してから言った。

その指摘に、花音は信じられないと言わんばかりに両手を広げる。


「体感温度、リアルに設定したら凍えるよ」

「確かにな」


花音の訴えに、上空を見上げた徹は同意した。

『シャングリ・ラの鍾乳洞』の上空には、もう一つの調査対象である『サンクチュアリの天空牢』がある。

『サンクチュアリの天空牢』には、『朽ち果てた黄昏の塔、パラディアム』のように迎撃システムはない。

だが、『レギオン』と『カーラ』は、いつ介入してくるのかは分からない。

何事にも、用心に越したことはないだろう。


「よし、行こう!」

「ああ」

「うん」


望達はそれぞれの武器を手に、果敢にダンジョン調査へと挑んだ。

『シャングリ・ラの鍾乳洞』のクエスト内容は、洞窟の奥にある『氷の結晶』を手に入れるというシンプルなものだ。

出現するモンスターは同じ種類のモンスターであり、洞窟内も基本、ペンギン男爵が作成したマップ通りに進んでいけば、奥までたどり着くことができるだろう。

つつがなく、望達はダンジョンの奥へと歩を進めていった。

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