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留菜マナ
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第ニ百四十七話 黄昏時の邂逅③

公開日時: 2021年5月23日(日) 16:30
文字数:1,654

「とにかく、ここから脱出するぞ」

「だが、有。どうやって脱出するつもりだ」


周囲を窺っていた奏良は意外そうに、有に水を向ける。


「ダンジョン脱出用のアイテムが使えないのなら、ダンジョンの入口まで戻るしかない。イリスを殿(しんがり)にした上で、ニコットの追跡を振り切るしかないからな」

「元の道を戻るのか。また、動きを阻害される可能性が高いな」

「そうだな」

「そうだね」


奏良の思慮に、望とリノアは自分と周囲に活を入れるように答えた。


「なら、お兄ちゃん、任せて!」


居ても立ってもいられなくなったのか、花音はモンスターに攻撃する際の身振り手振りを加えながら飛び跳ねた。

スライムタイプのモンスターも、花音の動きを真似するように飛び跳ねる。


「私達も、イリスちゃんと一緒に殿を努めるよ! どんな相手が来ても、私の天賦のスキルとこの子で入口までの道を切り開いてみせるよ!」

「花音。まだ、作戦を考えてもいない。そして、少し場所をわきまえてくれ」


花音が自信満々で告げると、奏良は呆れたように視線を周囲に飛ばす。

花音が奏良の視線を追うと、ニコットがこちらの様子を凝視していた。


「その、話してしまってごめんなさい」


ニコットの反応に、視線を逸らした花音は気まずい表情を浮かべて謝罪する。


「望、リノアよ、ダンジョンの入口に戻るぞ! これからのことは走りながら話し合う」

「ああ、分かった」

「うん、分かった」


有の指示に、望とリノアは花音の腕を引いて、ダンジョンの入口へと向かった。

ダンジョン調査と銘打たれたクエスト。

残り四ヶ所と迫った状況の中、望達は来た道をニコットの妨害を払い除け、足早に走っていく。


「とにかく、ここから離れるぞ!」

「ああ」

「うん」


先導していく有に案内されて、望達はダンジョンの入口へと足を速める。

しかし、新たなモンスターの大群が通路を塞いできた。


「ふむ。あまり強くない敵とはいえ、複数出ると厄介だな」


モンスター達の攻撃を回避しながらも、有はインターフェースを表示させて、ダンジョンの入口までのルートを検索していく。


「妹よ、頼む」

「うん」


有の指示に、鞭を振るっていた花音は勇ましく点頭した。


「よーし、一気に行くよ!」


花音は跳躍し、モンスター達へと接近した。


『クロス・リビジョン!』


今まさに望達に襲いかかろうとしていたモンスター達に対して、花音が天賦のスキルで間隙を穿つ。

花音の鞭に搦(から)め取られた瞬間、鞭状に走った麻痺の痺れによって、モンスター達は身動きを封じられた。

さらに追い打ちとばかりに、花音は鞭を振るい、何度も打ち据える。

数十匹のモンスター達のライフが減り、消滅していく。

しかし、花音の防衛をすり抜けて、モンスター達は望達へと迫った。


「お兄ちゃん、お願い!」

『元素復元、覇炎トラップ!』


花音の合図に、有は襲いかかってきたモンスター達に向かって杖を振り下ろした。

有の杖が床に触れた途端、空中に炎のトラップシンボルが現れる。

モンスター達がそれに触れた瞬間、熱き熱波が覆い、炎に包まれた。

だが、熱に強いモンスター達はその炎を振り払い、襲いかかってくる。


「奏良よ、頼む」

「言われるまでもない」


有の指示に、奏良は弾丸を素早くリロードし、銃を構えた。

発砲音と弾着の爆発音が派手に響き、モンスター達を地面へと沈ませる。


「行きます!」


裂帛の咆哮とともに、プラネットは力強く地面を蹴り上げた。


「はあっ!」


気迫の篭ったプラネットの声が響き、ベヒーモス達は次々と爆せていく。

花音達の攻撃により、モンスター達の数は半分近くまで減った。

そのタイミングで、花音は周囲を警戒しながら望に尋ねた。


「ねえ、望くん。また、あの時のように、リノアちゃんがいる時でも蒼の剣に特殊スキルの力を込められないかな?」

「試してみるか。ーー『魂分配(ソウル・シェア)』!」

「試してみるね。ーー『魂分配(ソウル・シェア)』!」


花音の疑問に応えるように、望とリノアは自身のスキルを口にする。

だが、何も起こらない。

状況がいまいち呑み込めず、望とリノアは苦々しい顔で眉をひそめた。

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