「吉乃信也を捕らえるのですか……?」
徹から連絡が入ったイリスは上空で驚愕していた。
望と有が発案した作戦の概要を聞いたイリスは襲いかかってきたモンスターを次々と葬り去る。
望と有が呈示した案。
リノアが意識を失ったことと連座して、美羅の力を一時的に失わせる。
それは無策よりはるかにいいが、少なくともリノアをかなりの危険に晒すことになりかねない。
しかし、世界に生じる禍根を断つためには何らかの変化が必要だった。
「分かりました」
意図的に薄い存在感を徹していたイリスは、『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドメンバー達と疎通して応戦しながらも捕縛対象である信也の居場所を特定している。
だが、信也達もまた、上空を旋回しているイリス達の動向に気づいていた。
いつでも交戦できる構えを取っている。
「では、私は吉乃信也を捕らえるお力添えをします」
イリスは意思を示すように直言する。
あくまでこれは超常の領域にある美羅の加護を受ける開発者達の一人を捕縛すること。
倒すを確約するものではなく、どれほどの情報を得ることができるかも未知数。
むしろ、信也は何らかの方法で口を割らない可能性もあった。
しかし、それでも開発者の一人を捕らえれば、賢達の動きに乱れが生じるはずだ。
「分かった。このまま、上空からの援護を頼むな」
『了解しました』
徹は通信を切り、神妙な面持ちで上空を眺める。
特殊スキルの使い手がいるギルドのメンバー達は、特殊スキルによる世界改変の影響を受けない。
だが、美羅の真なる力が発動されれば、徹達でさえ、あの理想の世界自体が今までの世界だと錯覚していくのだろう。
その矛盾した事実が正しい歴史として紡がれていくことに徹は戦慄してしまう。
「吉乃信也の『明晰夢』の力は、紘の特殊スキル、『強制同調(エーテリオン)』の力によって抑えられているけれど……」
信也の『明晰夢』の力は、紘の特殊スキル、『強制同調(エーテリオン)』の力によって抑えられている。
その好機を活かして、望達が信也を捕らえなくてはならない。
だが、そのためにはリノアの意識を失わせる必要があった。
「マスター。後方からの奇襲は現在のところ、問題ありません」
「そうなんだな」
「そうなんだね」
後方を警戒していたプラネットの言葉に、望とリノアは一呼吸置いて応える。
「ただ、リノア様の座標の移動を止めるためには、吉乃信也を捕らえる必要がーー」
プラネットが憂いを帯びた眼差しで信也に視線を向けた途端、一体の骨竜が望達に危害を加えようとした。
だが、その前に金色の光を身に纏った四肢を持つ光龍が立ち塞がる。
骨竜とさほど変わらない巨躯の光龍は、主である徹の指示に従って、望達に危害を加えようとした骨竜を睥睨した。
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