高位ギルド『レギオン』と『カーラ』。
数多の悪逆を敷き、自らの目的のためなら無辜の人達の自由を奪っていた。
彼らが掲げる理想の世界を築くためにーー。
『一毅の念願を果たすのはこれからだ』
無人の研究所ーーかっての思い出の場所に赴いた際、賢が発した確固たる信念。
信也は目を凝らして、陣形が組まれた街道を眺めた。
「差し迫った危機があるのなら、速攻を狙うのは悪くない手だな」
紘の指示で『アルティメット・ハーヴェスト』の戦線が動き出すのを、信也は感心したような瞳で追いかける。
信也は紘の特殊スキルを警戒しながら、王都『アルティス』まで出向いた。
だが、その警戒心は無為に終わる行為だったと悟る。
紘の特殊スキル、『強制同調(エーテリオン)』。
それは過去、現在、未来、全てを見据えた上で、未来へと導いていく力だ。
規格外である紘の特殊スキルによって、『アルティメット・ハーヴェスト』は様々な情勢を自由に選択することができる。
その力を用いれば、望を美羅に遭遇させないようにすることも出来たはずだ。
しかし、望と美羅は、『レギオン』と『カーラ』によって作為的に引き合わされている。
つまり、美羅の力によって引き起こされた出来事は、如何に特殊スキルの使い手であっても覆すことは厳しいということだ。
「美羅から授かった『明晰夢』の力と椎音紘の特殊スキルの力。この戦いではどちらに軍配が上がるのか、試させてもらおう」
信也は自らの矜持を持って運命の天秤を傾けていく。
紘の特殊スキル、『強制同調(エーテリオン)』。
それに対抗するように、信也は秘めた力を発揮した。
苛烈な赫。麗しい美羅から授かりし浄化の色ーー『明晰夢』の力を励起していく。
覚悟の焱(えん)は優しく罪を吞み込んでいくことになるだろう。
罪炎が世界を焼くように。
紘達が怯える事のないように。
長く苦しむことのないようにーー魔力を奔らせる。
強大無比な『明晰夢』の力ーーしかし、それは発動出来なくては意味をなさない。
「吉乃信也。君は自分の持つ『明晰夢』の力の本当の使い道を分かっていない。持てる力を別の方向に振るわないのは罪だ」
「ーーっ」
信也が『明晰夢』の力を振るおうとしたその時、紘が振りかざした槍が割って入ってくる。
鋭く重い音が響き、信也の身体が吹き飛ばされた。
「信也様!」
後方に大きく後退した信也の姿に、『レギオン』と『カーラ』のギルドメンバー達は明確な異変を目の当たりにする。
紘の特殊スキル、『強制同調(エーテリオン)』の力によって、信也の動きは捉えられていた。
『明晰夢』の力を行使することができない。
その事実は信也のHPの度重なる減少という形となって表れていた。
「……まさか、『明晰夢』の力を行使することができないとは。『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドマスターの実力は伊達ではないな」
起き上がった信也は表情に苦悶の色を滲ませる。
「素晴らしい力だ、椎音紘。美羅が求めているものは特殊スキルの使い手。ならば、君にも機械都市、『グランティア』までご同行願おうか」
「なら、私達を止めてみるがいい」
微かな高揚が窺える紘のその反応を見て、信也の背筋に冷たいものが走った。
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