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留菜マナ
留菜マナ

第ニ十話 その先の未来⑧

公開日時: 2020年11月11日(水) 16:30
文字数:1,345

『ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』


雷鳴ごとき咆哮。

その叫びだけで壁を揺らし、天井から破片を降らせた。

ボスモンスターが魔力を放出すると、望達に向かってマグマのような灼熱が再び、襲いかかる。


「くっ……!」


混沌とした炎舞を、望達はかろうじて避けた。


「わっ! また、炎の壁で先に進めないよ!」


即座に鞭による攻撃で怯ませようとしていた花音は、目の前に現れた炎の壁に反撃の手を止める。


『エアリアル・アロー!』


奏良が唱えると、無数の風の矢が一斉にボスモンスターへと襲いかかった。

HPを示すゲージは少し減ったものの、いまだに青色のままだ。

望は咄嗟に焦ったように言う。


「有、このままじゃ埒が明かない」

「ああ、分かっている。とりあえず、みんな、一度、回復アイテムを使ってHPを回復させるぞ!」


有は腕を組んで考え込む仕草をすると、唸り声を上げるボスモンスターの様子を物言いたげな瞳で見つめた。


「奏良、妹よ。これで少し楽になるはずだ」

「うん。お兄ちゃん、ありがとう」

「有。君は人使いが荒い上に、全く効率的ではない。戦う前に回復アイテムを渡してほしかった」


有はボスモンスターを刺激しないように近づくと、花音と奏良に回復アイテムを放った。

屈託のない笑顔でやる気を全身にみなぎらせる花音と、先の戦いを見据えながら、額を押さえて途方に暮れている奏良。

二人は受け取った回復アイテムを手に戦線を離れると、そこで一息つき、回復アイテムを口に含む。

花音と奏良はHPを少しずつ回復させていく。

その間、望が波状攻撃を仕掛け、ボスモンスターの注意を引いていた。


「望くん、お待たせ!」

「状況が状況だからな。愛梨のために、全力を尽くさせてもらおう」


望の代わりに、花音が前衛に立ち、後方で奏良が風の魔術を放つ。


「望よ、回復アイテムだ」

「ああ。有、ありがとうな」


有から手渡された回復アイテムを呑んだことで、望のHPは少し回復した。

望が振り返ると、ボスモンスターは瓦礫を薙ぎ払い、破壊の限りを尽くしていた。

強く輝く光、明滅する炎、儚く灯るスケルトンの残滓。

それらは見方によっては、暗い夜空の中で瞬く星空にも似ていた。

だが、もたらすものは、得体の知れない禍禍しさだけだ。


「このままでは勝てないな」


ボスモンスターを見据えながら、奏良は事実を冷静に告げた。


「奏良くん、奥の手とかないの?」

「僕の今のレベルでは、せいぜい弾に風の魔術を込めて放つしかできないな」


花音が恐る恐る尋ねると、奏良は自分と周囲に活を入れるように答える。

奏良は風の魔術を使い、弾に魔力を込めていった。

弾の外殻が次々と変色していく。


魔術による武器への付与効果ーー。


不意の閃きが、花音の脳髄を突き抜ける。

その様子を眺めていた花音が、興味津々な様子で言った。


「それ、私の鞭にもできないかな?」

「僕の今のレベルでは、自分自身の武器にしかできないな」

「……そうなんだね」


曖昧に言葉を並べる奏良に、花音は不満そうな眼差しを向ける。

だが、すぐに状況を思い出して、花音は表情を輝かせた。


「なら、ここのボスを倒したら、みんなでレベルアップできるね!」

「そうだな」


てきぱきと鞭を動かし、ボスモンスターを翻弄しながら、周囲に光を撒き散らすような笑みを浮かべる花音を、望は眩しそうに見つめた。

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