吉乃一毅。
吉乃美羅。
二人の通夜と告別式に参列し、賢達は一毅と美羅の死を否応なしに実感する。
『『究極のスキル』を使って、美羅を生き返させてくれないか……』
一毅が最期に残した遺言。
それは、死にゆく者が残された者達に対して遺した言葉。
その夜、賢達の心中で、彼の言葉が残響のように繰り返される。
それはまるで、祈りを捧げるような願いだった。
一毅のその言葉は、今までのどの言葉よりも賢達の心に突き刺さった。
信也とかなめは成果を出すため、プロトタイプ版の開発に血道を上げる。
「賢、ついに完成だ……」
「これが、『創世のアクリア』のプロトタイプ版です」
「ついに、この時が来たか」
信也とかなめからの報告に、賢は嗜虐的に笑みを浮かべる。
その後、後を託された信也達は、試行錯誤を得て『創世のアクリア』のプロトタイプ版を完成させたのだった。
そして、サービスを開始した『創世のアクリア』にプレイヤーとしてログインすることによって、一毅の望みである美羅を生き返させる方法を模索する。
『究極のスキル』という言葉を頼りにーー。
そんな中、ゲーム内に無限の好奇心と飽くなき探求心を深めていた賢は、やがて『特殊スキル』という唯一無二のスキルの存在を知った。
世界を牛耳る力と謳われ、現実世界をも干渉する力。
そのスキルの存在を知った時、賢の心は歓喜に占められた。
『『特殊スキル』。唯一無二の力。なら、私のスキルの力で、その力を扱う存在を産み出すことはできないだろうか』
賢は恍惚とした表情で空を見上げながら、己の夢を物語る。
『特殊スキル』。
それこそが、一毅が語っていた『究極のスキル』なのだと悟ったからだ。
そのスキルを用いれば、美羅を甦らせることができる。
だが、通常の固定スキルである『アイテム生成』のスキルでは、人を産み出すという神のごとき力はなかった。
自身のスキルだけではできない。
なら、複数の固定スキルを重ね合わせれば、可能なのではないだろうか。
機械的な笑みを浮かべたまま、賢の思考は一つの推論を導いた。
「まずは、ギルドを立ち上げることが先決か」
思考を加速させた賢は、やがて禁断の方法へと目を向ける。
それは、特殊スキルの使い手達のデータを収集して、新たな特殊スキルの使い手ーー美羅を産み出そうというものだった。
賢は、自身の思想に共感したプレイヤー達とともに、『レギオン』を発端させるとすぐに動き出した。
特殊スキルの使い手である愛梨のデータを収集すると、ギルドメンバー達のスキルを複合させて、そのデータベースを再構築(サルベージ)させるという離れ技を実行してみせたのだ。
最初は、ただの愛梨と吉乃美羅のデータの集合体だった『救世の女神』という存在。
しかし、特殊スキルの使い手である望と愛梨にシンクロさせることによって、実際の人間と同化させられるところまで進化を果たしていた。
「ついに、ここまできたか」
儚き過去への回想ーー。
沈みかけた記憶から顔を上げ、現実につぶやいた賢は、玉座で眠り続けているリノアの様子を伺う。
「美羅様」
まるで運命の出逢いを果たしたように、賢はその名を口にした。
艶やかな茶色の髪は肩を過ぎ、腰のあたりまで伸びている。
美羅と同化した、愛梨と同じ年頃の少女。
病室から強制的に仮想世界へと送り込まれたリノアが、その玉座で眠っていた。
彼女はこれからも、『レギオン』の作る未来の象徴になる存在だった。
「特殊スキルの使い手を手中に収めれば、全ては美羅様のお望みのままに」
片膝をついた賢の呼びかけに、美羅と呼ばれたリノアは何も答えない。
やがて、賢は立ち上がり、リノアの側まで歩み寄る。
賢は、リノアを見ていない。
リノアと同化した美羅だけを見ていた。
もう会えないと絶望した。
もう一度、会いたいと夢想した。
恋に焦がれて、現実に打ちのめされて、それでも求めた女性が手に届く場所にいる。
「彼女は、もう『吉乃美羅』様だ」
身を焦がすあらゆる感情を呑み込んで、賢は大切な女性の名前を口にした。
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