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留菜マナ
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第ニ百ニ十四話 久遠の鳥籠④

公開日時: 2021年4月29日(木) 16:30
文字数:1,500

「望よ、『カーラ』のギルドマスターの目を誘導してほしい」

「ああ。分かっている」

「うん。分かっている」


有の焦がれるような懇願に、望とリノアは思わず、逡巡する。

だが、その迷った数瞬が明暗を分ける一線だった。


「……誘導ですか。残念ですが、その手には乗りません」


かなめは子守歌のように言葉を紡ぐと、自身の魔術のスキルを発動させた。


『我が愛しき子よ』


かなめと『カーラ』のギルドメンバー達によって召喚されたモンスター達の周りに、魔方陣のような光が浮かぶ。


「「くっーー」」


望とリノアは決断した。

決断を強いられた。

かなめが魔術のスキルを発動させるまでの合間。

この間に攻めなければ、望達には手の打ちようがない。


「「これで決める!」」


望とリノアが構えた剣から、まばゆい光が収束する。

蒼の剣からは、かってないほどの力が溢れていた。


「蒼の剣、頼む!」

「蒼の剣、お願い!」


花音達の前に進み出た望とリノアは、望と愛梨の特殊スキルが込められた剣を構える。

流星のような光を放って、『カーラ』の魔術のスキルの使い手達が放った炎を流れるような動きで弾くと、望とリノアは迫ってきたモンスター達の攻撃をいなした。


「これでどうだ!」

「これでどう!」

「ーーっ!」


望はそのまま、一瞬でかなめの懐に潜り込み、虹色の剣を横に薙いだ。

光の連なりが、剣筋とともに閃く。

かなめのHPは、一気に減ったが、倒すまでには至らない。

しかし、かなめの意識が削がれ、魔術の発動は途切れた。


「かなめ様!」

「大丈夫です。問題ありません」


かなめは駆け寄ろうとした『カーラ』のギルドメンバーを制すると、自身の光の魔術を使って回復する。


「望くんとリノアちゃんの特殊スキルの力でも、倒せないなんて……」


花音は名残惜しそうな表情を浮かべると、傷を癒したかなめを見つめる。


「心配するな、妹よ。このまま攻め込めば、必ず勝機はある」

「うん。お兄ちゃん、そうだね」


杖を構えた有の宣言に、花音は人懐っこそうな笑みを浮かべて答えた。


「ここで諦める選択を選ぶなんて、私達らしくないもん」

「そうだな」

「そうだね」


予測できていた花音の答えに、望とリノアは笑みの隙間から感嘆の吐息を漏らす。


「俺達が勝つためには、この状況を打破するしかないな」

「私達が勝つためには、この状況を打破するしかないね」

「うん」


望とリノアの決意の宣言に、花音は意図して笑みを浮かべてみせた。


「「はあっ!」」

「くっーー」


望とリノアによる阿吽の呼吸。

望とリノアの息の合った連携は、かなめ達に強力な攻撃ではなくては状況を打破できない、という思い込みを誘発させる。

『カーラ』のギルドメンバーは次第に、引き際を余儀なくされていく。


「これなら、何とかーー」

「柏原勇太くん。残念だが、何とかならない」


そう告げる前に先じんで言葉が飛んできて、勇太は口にしかけた言葉を呑み込む。


「私も、この場に居ることを忘れてもらっては困る」

「……先生」


信也の警告に、勇太は不信感を抱いたまま、表情を険しくする。


「容易に、この場から逃げ切れるとは思っていないはずだ」

「ああ、そうかもしれない」

「うん、そうかもしれない」


立ち塞がってきた信也を前にして、剣を構えた望とリノアは同意を示した。


「なら、俺達がリノア達の道を切り開くだけだ!」

「「勇太くん」」


勇太の決意に、望とリノアは躊躇うように応える。


「今度こそ、絶対にリノアを救ってみせる!」


勇太は両手で大剣を構えると、信也と向き合った。

勇太が今、対峙するべきは、迫る眼前の脅威だ。

そして、『カーラ』への邪念よりも先に、大切な幼なじみを守るという信念。


「行くぜ!」


断定する形で結んだ勇太は、信也に向かって駆けていった。

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