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留菜マナ
留菜マナ

第ニ百三話 境界の魔術士⑦

公開日時: 2021年4月9日(金) 16:30
文字数:1,353

「ロビーまで、何事もなく、たどり着けたな」

「ああ。どういう事なんだろうか」

「うん。どういう事なのかな」


徹の発言に、望とリノアが通路を見渡しながら答えた。

てっきり、罠が仕掛けられていると思っていた望達は拍子抜けする。


「お兄ちゃん達、ロビーにいるのかな?」


花音がそう言って、ロビーへと駆け出した瞬間だった。


「……えっ?」


花音が触れた床からカチッと鋭い音が鳴り響き、望達は一斉に光に包まれる。

光が収束した瞬間、望達は先程まで居た部屋へと戻っていた。


「どうして、元の場所に戻っているのー!」

「まあ、そうなるよな」


花音の戸惑いに応えるように、徹は推測を確信に変える。


「無限回廊か」


徹はこの状況に察しがついていた。

ループする回廊。

ダンジョンではよくあるポピュラーな仕掛けで、気付かずに進んでいると、ずっと同じ場所を歩き続ける羽目になる。


「徹くん、どうしたらいいのかな?」

「正解の道を歩けばいいという話じゃないな。ロビーには、あのフロアからしか行けない」


花音の懸念に、徹は頭を悩ませる。


「ダンジョン脱出用のアイテムもダメみたいだ」


徹はここから脱出するために、ダンジョン脱出用のアイテムを掲げた。

しかし、無反応の様子を見て、不満げに表情を歪ませる。

どうやら、このダンジョンには、転送アイテムなどを使用不可にするトラップが働いているようだった。


『サンクチュアリの天空牢』には、『アルティメット・ハーヴェスト』の念入りな調査が入っている。

少なくとも、昨日まではダンジョン脱出用のアイテムなどを使えていたはずだ。

それなのに、望達がダンジョンに足を踏み入れた瞬間、使用不可の状況に追い込まれていた。


その不可解な現象を前にして、望は一抹の不安を覚える。


「この現象。『レギオン』の仕業なのか?」


周囲を窺っていた勇太は、周囲の様子を見て痛々しく表情を歪ませる。


「とにかく、有達と合流する方法を探すしかないな」


徹は気持ちを切り替えるように一呼吸置くと、改めて部屋を見渡した。

部屋には、大きいテーブルとチェアが置かれている。

ただ、置き方はバラバラで散らばっており、幾つかのチェアは倒れていた。


「ロビーに戻れないとすると、どこに行けばいいんだろうな」

「ロビーに戻れないとすると、どこに行けばいいのかな」


望達は部屋を出ると、有達を探すべく、通路を歩き出す。

今度は扉の先にあった階段を上り、上の階へと歩を進める。

しばらく先を進んでいると、望達の目の前にモンスターの姿が現れた。


「行くぜ!」


倒すべき敵を睨み据えた勇太が床を蹴って、勇猛果敢にモンスターへと向かって駆ける。

勇太を迎え撃つように、二手に別れたモンスター達が襲いかかってきた。


「よーし、一気に行くよ!」


そこで花音は跳躍し、左方向のモンスター達へと接近した。


『クロス・リビジョン!』


今まさに望達に襲いかかろうとしていたモンスター達に対して、花音が天賦のスキルで間隙を穿つ。

花音の鞭に搦(から)め取られた瞬間、鞭状に走った麻痺の痺れによって、モンスター達は身動きを封じられた。


「望くん、リノアちゃん、お願い!」

「ああ!」

「うん!」


花音の合図に、跳躍した望とリノアが剣を振るい、右方向から攻めてきたモンスター達を木端微塵に打ち砕いた。

だが、さらに三体の影が、前方から襲いかかってくるのが見えた。

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