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留菜マナ
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第三百ニ十六話 芳香のつむじ風①

公開日時: 2022年1月28日(金) 16:30
文字数:1,473

後日、改めて有の家に集まった望達は、携帯端末を操作して、『創世のアクリア』のプロトタイプ版へとログインする。

オリジナル版と同様に、目の前に広がる金色の麦畑や肌に纏わりつく風と気候も、まるで本物のように感じられた。

だが、有達のギルド『キャスケット』がある、湖畔の街、マスカットの街並みは閉散としていて人気は少ない。

唯一、見かけるのは、NPCである店員の姿だけだった。


「お兄ちゃん。愛梨ちゃんのお兄さんはログインしているのかな?」

「妹よ。恐らく、ログインしているだろう。そして『アルティメット・ハーヴェスト』の者達、『レギオン』と『カーラ』の者達もログインしているはずだ」


花音の戸惑いに、有は思案するように視線を巡らせる。


「そういえば、昨日、徹と何か話していたな」


奏良は昨日、目の当たりにした光景を思い返して、渋い顔をした。


「僕達がこれから会いに行こうとしていることも、特殊スキル『強制同調(エーテリオン)』によって織(し)っている可能性が高いな。昨日の会話では、『レギオン』と『カーラ』による今後の企みを事前に織(し)っていたようだったからな」

「今は『レギオン』と『カーラ』の対策、『アルティメット・ハーヴェスト』との協力態勢で厳しいが、椎音紘に会えば、何かしらの方針が定まってくるだろう」


奏良の懸念に、有は推測を確信に変える。


「とにかく、望、奏良、母さん、妹よ。まずはギルドで勇太達と合流するぞ!」

「ああ」

「うん」

「そうだね」

「それしか、この状況を打破する手段はなさそうだからな」


有の方針に、望と花音と有の母親が頷き、奏良は渋い顔で承諾する。

目的が定まった望達は早速、ギルドへと足を運ぶ。


「マスター、有様、花音様、奏良様、有様のお母様、お待ちしておりました」

「プラネット!」

「プラネットよ、準備は万端のようだな!」

「わーい、プラネットちゃん!」


望達がギルドに入ると、プラネットが丁重に控えていた。

アンティークな雑貨の数々と、有の母親の火の魔術のスキルで光らせている灯は、ギルド内に幻想的な雰囲気を醸し出している。

プラネットとの合流の喜びも束の間、有は今後のことを思案した。


『レギオン』と『カーラ』の対策、そして『アルティメット・ハーヴェスト』との協力態勢。

どうすれば、この不利な状況を打開することができる?


どうしたらいいのかという疑問が、有の思考を埋め尽くす。


望達がダンジョン調査を行っているーーこの現状を利用して、『レギオン』と『カーラ』は動いている節がある。

今までのダンジョン調査で具体的な成果といえば、吉乃信也を含めた『レギオン』と『カーラ』が接触してきたことくらいだ。


『創世のアクリア』のプロトタイプ版には、望達の知らない事実が隠されている。

究極のスキルーー特殊スキルについてのことも含めてという信也の意味深な発言。

そして、行く先々で、賢とかなめが語った美羅に関する明言と表明だった。


このまま、ダンジョン調査を続行しても、詳しい成果は得られないかもしれない。

だが、それでもこの状況を打破するためには、それしかないと奏良は悟った。


『アルティメット・ハーヴェスト』が提示してきたクエストの中に、特殊スキルの秘密に迫るものがないというのならーー。

『レギオン』と『カーラ』が管轄しているダンジョン、もしくは彼らの拠点であるギルドホームに秘密が隠されているはずだ。


奏良は藁にもすがる思いで策を講じる。


「『レギオン』の者か、『カーラ』の者を捕らえる方法を模索しないとな」

「捕らえる方法か……」


奏良が発したその意見を皮切りに、望は沈着に現状を分析した。

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