「まんまと罠に嵌められたということか?」
「奏良くん、違うよ。逆、逆!」
奏良が忌々しそうにつぶやくと、花音はそれを全力で否定する。
そこに意味があるように。
「妹よ、意味が分からないぞ」
「お兄ちゃん、この部屋が最初に明晰夢で複合された起点の場所だよね。それってつまりーー」
問いにもならないような有のつぶやきに、花音は人懐っこそうな笑みを浮かべて言った。
「逆に言うと、この部屋はーーこのダンジョンの明晰夢の複合を紐解く唯一無二の場所だもん」
「そうだな」
「そうだね」
思わぬ花音の答えに、望とリノアは笑みの隙間から感嘆の吐息を漏らす。
「俺達が勝つためには、この状況を打破するしかないな」
「私達が勝つためには、この状況を打破するしかないね」
「うん」
望とリノアの決意の宣言に、花音は意図して笑みを浮かべてみせた。
有達のギルド『キャスケット』。
誰かと共にあるという意識は、押されていてもなお、決して自分達が負けることはないという不屈の確信をかきたてるものだと望は感じた。
「花音、ありがとうな」
「花音、ありがとう」
「うん」
望とリノアが誠意を伝えると、花音は朝の光のような微笑みを浮かべた。
「私、望くんとリノアちゃんを信じている」
花音は望達を眩しそうに見ると、胸のつかえが取れたように告げる。
信じているーー。
その言葉には何の根拠もなく、何かの保証には決してなり得ないことを知りながら、花音が口にすると、まるでそれは既に約束された未来の出来事のように感じられた。
俺が今、この場でできること。
それはきっとーー。
望の中で、漲る力が全身を駆け巡る。
何物にも代えがたい花音の笑顔。
その笑顔はたとえ、どんな世界でも変わることはないだろう。
完膚なきまで叩き潰すために攻勢を強めてきた『レギオン』と『カーラ』のギルドメンバー達を前にして、望達は迎撃態勢に入る。
「くっ」
「……っ」
望とリノアは後方に跳んで、襲い掛かってきたベヒーモス達の一撃を避ける。
今まで、かなめの光の加護の効果を消し去ったことがあるのは、愛梨の特殊スキル『仮想概念(アポカリウス)』だけだ。
だからこそ、かなめはこの状況下で、光の加護の付与を行ってきたのだろう。
望が愛梨に変わるきっかけを作るためにーー。
「「この状況を絶対に打破してみせる!」」
剣を構えた望とリノアは、この状況に変化をもたらすために高らかにつぶやいた。
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