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留菜マナ
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第四十四話 雨が恋しくて①

公開日時: 2020年11月23日(月) 16:30
文字数:1,639

「ペンギン男爵よ。何か変わったことはあったか?」

「高位ギルド『アルティメット・ハーヴェスト』から、椎音愛梨様のギルド兼任に関する承諾のメッセージが届いています。それ以外は、ご報告する事柄はありません」


有の疑問に、ペンギン男爵は訥々と説明した。

ペンギン男爵の報告を聞いて、有は早速、メッセージを確認する。

そこには、愛梨に関する当たり障りのない情報が記載されていた。

だが、メッセージの最後に記されていた内容を見て、有は顔を強張らせる。


望達が知り得ている情報ともに、望と愛梨の監視に纏わる強制的な申請。


『アルティメット・ハーヴェスト』から届いたメッセージには、そう記載されていた。

有は前に進み出ると、不穏な空気を吹き飛ばすように口火を切った。


「ペンギン男爵よ。戻る前に、新しいクエストの情報を教えてほしい」

「かしこまりました」


有の鋭い問いに、ペンギン男爵は丁重に答える。

ペンギン男爵は軽い調子で指を横に振り、望達の目の前に幾つかのクエスト名を可視化させた。

その中で、望は不可思議なクエストに気づき、目を瞬かせる。


・『メルサの森にあるネモフィラの花畑に、雨を降らせて』


「雨を降らせる?」

「メルサの森に、雨雲を吸い込んでいるモンスターが潜んでいます。そのモンスターを倒す、もしくは花畑に雨を降らせてほしいそうです」


望の質問に、ペンギン男爵は律儀に答えた。


「雨を降らせるか。僕達のスキルでは、それは不可能だな」

「そうだな」


奏良の懸念に、望は緊張した面持ちで告げる。

奏良のスキルは、風の魔術。

有の母親のスキルは、火の魔術。

どちらも雨を降らせることができないスキルだ。

たとえ出来たとしても、一から生み出すのは至難の技だろう。


「ペンギン男爵よ。このクエストの詳しい情報を知りたい」

「かしこまりました」


有の要望に、ペンギン男爵はそっと、手の先端をそのクエストに触れる。

その瞬間、望達の目の前には、目的のクエストの詳細が明示された。


『メルサの森にあるネモフィラの花畑に、雨を降らせて』


・成功条件

 雨雲を吸い込んでいるボスの討伐

 もしくは、水の魔術などで長時間、雨を降らせる

・目的地

 メルサの森

・受注条件

 特になし

・報酬

 ネモフィラの花束


「報酬は、花束だけなのか」

「初心者クエストなのかも」


意外な報酬を見て、望と花音は呆気に取られる。


「水の魔術を使えるプレイヤーなら、容易に達成できるからな。このくらいの報酬が順当だろう」

「望、奏良、妹よ。そうとも限らないぞ」


奏良が冷静に状況を分析していると、有は即座にインターフェースを操作して、『創世のアクリア』におけるネモフィラの花の素材価値を調べる。


「ネモフィラの花は、希少な素材だ。街の取引で得るには、相応のポイントがかかる」

「その通りです」


有の指摘に、ペンギン男爵は恭しく礼をする。

ペンギン男爵は真偽を実証するために、望達の目の前に一つの武器名を可視化させた。


・ボスモンスターのドロップアイテムの一つ

 『蒼の剣』


「『蒼の剣』か」

「やっぱり、望くんの武器だよね。お店で見たことない武器だよ」


聞いたこともない武器名を前にして、望と花音は目を見張る。


「皆様、今回のクエストで出現する『雨雲を吸い込んでいるモンスター』は、まれに希少な武器などをドロップすることがあります。ボスモンスターは何度も復活しますので、挑戦してみてはどうでしょうか?」

「希少な武器か」

「伝説の武器は手に入らなかったけれど、レア装備は手に入るかもしれないね」


ペンギン男爵の説明を聞いて、望と花音はドロップされる武器に想いを馳せた。


「『希少な武器など』ということは、僕の武器もドロップされる可能性があるのか?」

「マスターの武器、是非、手に入れたいです」

「いいんじゃないのか」

「そうだね」


奏良、プラネット、そして有の両親も賛同する。


「よし、望、奏良、父さん、母さん、プラネット、そして妹よ、このクエストを受けるぞ!」


有の決意宣言とともに、有達のギルド『キャスケット』の新たなクエスト受注が決まった瞬間だった。


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