「逃がしたか……」
暗澹たる思いでため息を吐いた奏良は、悔やむように語気を強めた。
目的を果たせなかった場合の段取りも既に踏んでいたのだろう。
『レギオン』と『カーラ』の者達の逃亡手段の確保は的確だった。
紘達は『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドメンバー達とコンタクトを取り、通学路周辺を探らせている。
「愛梨!」
「徹くん」
驚きとともに振り返った有達が目にしたのは、徹と『アルティメット・ハーヴェスト』のメンバー達だった。
愛梨のもとに駆け寄ってきた徹は、心配そうに声を滲ませる。
「愛梨、無理はするなよな。これからも何かあったら、すぐに俺か、紘に知らせろよ」
「……うん」
徹の配慮に、愛梨は小さく頷いた。
そのタイミングで、愛梨の前に進み出た奏良は軽やかに告げる。
「愛梨、困っている時は、いつでも僕に言ってくれ。すぐに馳せ参じよう」
「奏良くん、ありがとう」
奏良は目を伏せると、今も心細そうに花音の手を握りしめている愛梨に優しく語りかける。
「愛梨が困っている時に馳せ参じるのは、俺だからな!」
「君の出番はない。僕が必ず、愛梨を守ってみせる。今度こそ、彼女の不安を取り除いてみせる」
徹が非難の眼差しを向けると、奏良はきっぱりと異を唱えてみせた。
「おまえ、真似するなよ!」
「なっ、君こそ、僕の真似をしているではないか!」
激しい剣幕で言い争う徹と奏良の間を、花音が割って入る。
「もう、奏良くん、徹くん! 愛梨ちゃんのために、二人で仲良く守ろうよ!」
「……花音。何故、そこで愛梨の名前を出すんだ?」
「仲良く……」
花音のどこか確かめるような物言いに、奏良と徹は互いに不快そうに顔を歪める。
気まずげな雰囲気が漂う中、有は改めて切り出した。
「椎音紘、鶫原徹、そして『アルティメット・ハーヴェスト』よ、助かった」
「ああ」
有が代表して感謝の意を述べると、徹は照れくさそうに答えた。
「久遠リノアを救いだしたことで、『レギオン』と『カーラ』の者達の動きが加速する可能性が高い。愛梨と蜜風望を『レギオン』と『カーラ』の者達に渡すわけにはいかない」
「……ああ」
紘は毅然とした態度で宣言すると、徹は最小限の口の動きで応えた。
「そのためなら、私は何でもする」
「俺達も愛梨と望を護ることができるなら、何でもする」
紘の決意に応えるように、徹は携帯端末を強く握りしめる。
「特殊スキルの力に目を付けて、美羅の真なる覚醒のために利用しようとしている連中がいる」
激情と悲哀、様々な感情が渦巻く無窮の瞳で、紘は選び取った未来を垣間見た。
「なら、私はこれからもこの力を用いて、愛梨が幸せになれる未来を選び抜いていくだけだ」
様々な情念が去来する中、紘は導き出した一つの結論に目を細めた。
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