「さて、改めて自己紹介をしようか。現実世界では初めまして。私は手嶋賢。『レギオン』のギルドマスター、美羅様の参謀を努めている」
「愛梨は絶対に渡さないからな」
現状を見透かしたような賢の言葉に、徹は恨めしそうに唇を尖らせる。
賢は目を伏せると、静かにこう続けた。
「それは困るな。美羅様の真なる覚醒のために、彼女の存在は必要不可欠だ」
「とにかく、愛梨も紘も、そして望もリノアも、おまえ達に渡すつもりなんてないからな!」
賢の言葉を打ち消すように、徹はきっぱりとそう言い放った。
「そもそも、おまえ達が言う美羅の真なる覚醒なんて、誰も望んでいない!」
「……愚かな」
徹の答えを聞いて、賢は失望した表情を作った。
「こんな狂っている世界、俺達が絶対に戻してみせるからな!」
「私達にとっては、これが理想の答えだ。美羅様が真なる覚醒を果たせば、もはや私達の前には何の障害もない」
思いの丈をぶつられた賢は、その全てを正面から受け止めた上で、あくまでも笑顔を崩さない。
「それに、久遠リノア以外にも、美羅の適合者はいる」
「ーーっ!?」
賢が口にした決定的な事実に、徹は大きく目を見開いた。
「たとえ、久遠リノアを元に戻しても、また新たな者が美羅の器になるだけだ」
「ーーっ」
あまりにも衝撃的な事実を突きつけられて、徹達は二の句を告げなくなってしまっていた。
美羅の真なる覚醒ーー。
そのためには、リノアーーもしくは美羅の器になった者に愛梨の特殊スキルを使わせる必要がある。
「お願い! リノアちゃんを元に戻して!」
「それはできないな。美羅様の真なる覚醒には、彼女の器が今は必要だ」
花音の訴えを、賢はつまらなそうに一蹴する。
「手嶋賢よ。それは今、リノアの意識が戻ったらまずいということだな」
「……なるほど。失言だったか」
姿を現した有の発言に、賢は悔やむように唇を噛む。
「吉乃信也と吉乃かなめは、こちらで動きを封じている。この場にいるのが、君達だけなら打つ手はある」
「なるほど。既に私達の行動は把握済みということか」
紘の表情を見て、賢は察してしまった。
既に、賢達の動向は、『アルティメット・ハーヴェスト』の者達によって筒抜けだということを。
「私達の行動を封じているというのに、別の場所の行動をも干渉する。『強制同調(エーテリオン)』の力は脅威だな」
確信を持ってその結末を受け入れている賢の静かな声が、静かに通学路に響く。
「別の者が美羅の器になるなら、その前に美羅そのものを消滅させるだけだ!」
「……愚かな」
徹の切り返しに、賢は落胆したようにため息をついた。
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