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留菜マナ
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第三百九十三話 絶望と慟哭④

公開日時: 2023年5月12日(金) 16:30
文字数:1,209

「対処に回りたいのは山々だが……っ、『明晰夢』の力を発動した状態。それに椎音紘の連撃が厄介すぎる」


思考を途切れさせる紘からの淀みなく続く応酬。

信也の表情に浮かんだ苦痛を『レギオン』と『カーラ』のギルドメンバー達は支え続ける。


美羅の新なる力の覚醒による理想の世界の完成を求める『レギオン』と『カーラ』の総攻撃。

対するは美羅の力による理想の世界という狂気が更なる拡大を始める前に、決着をつけたいと願う故の有達『キャスケット』と紘達『アルティメット・ハーヴェスト』による猛反撃。


美羅が生み出した理想の世界。人の心を蝕む理不尽――それを理想の世界だと銘打っている『レギオン』と『カーラ』。

美羅の力を止める術ーーその実態を探るために、望達は『レギオン』の本拠地、機械都市『グランティア』へ赴く必要がある。


「チャンスは一度だけ。必ず目的を達成してみせるからな!」

「チャンスは一度だけ。必ず目的を達成してみせるからね!」

「……リノア、痛い思いをさせてごめんな」


望とリノアは勇太の前に立ち塞がる。

勇太に迫った信也の『明晰夢』の力をその身に受けるために。

世界を変えるその第一歩に繋がる攻撃がーー信也の『明晰夢』の力がリノアに命中した。

リノアのHPが今までにない速度で一気に減少する。

頭に浮かぶ青色のゲージは瀕死の赤色に変化していた。

リノアはまるで糸が切れたようにその場に崩れ落ちる。


「美羅が宿っている久遠リノアの意識を失わせることが狙いか」


迫り来る紘の猛攻を躱しつつ、合点がいった信也は望達の思惑に気づく。

リノアが意識を失えば、一時的とは美羅の力は発動しない。

そうすれば信也達、『レギオン』と『カーラ』の連合軍の動きに乱れが生じる。

その絶好の好機を強めるために奏良は即座に移動した。


「今だ!」


戦局全体を見極めていた奏良は銃を構えると範囲射撃をおこなう。


「ーーっ」


不意を突いた連続射撃は望達に迫ろうとした『カーラ』のギルドメンバー達を怯ませる。


「よし、望よ。今すぐ愛梨に変わってほしい」


それは絶好の好機だった。

有は混乱する『レギオン』と『カーラ』のギルドメンバー達の只中を駆け抜ける。


「プラネットちゃん、行くよ!」

「はい」


花音とプラネットは並走して苛烈な連携攻撃をモンスターに加えていった。


「みんなの想いに応えたい。そしてーー」


剣を構えた望は高らかにつぶやいた。


みんなを守る力がほしいーー。


それは望自身のスキルを使えば叶うと信じている。


望の想いに、望自身でもある愛梨は応えてくれるはずだからーー。


愛梨に変わっても戦局は変わらないかもしれない。

二大高位ギルドを撤退させられるかも分からない。

それでも望は諦めなかった。


「俺はーーいや、俺達は愛梨を信じている!」


望の宣誓はまるで祈りを捧げるような願いだった。

だからこそーー


『……『魂分配(ソウル・シェア)のスキル』』


不意に愛梨の声が聞こえた。

それは望を介し、望の意味が付与された愛梨の声だった。

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