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留菜マナ
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第三百三十九話 此処はサンクチュアリ⑥

公開日時: 2022年4月29日(金) 16:30
文字数:1,954

激化していく状況。

三ヶ所同時のダンジョン調査。

そして、紘達の協力を得て、『レギオン』の拠点である機械都市『グランティア』へ向かう意思を固める。

様々な思いが交錯する中、世界全体を揺るがす戦いへ向け、望達は少しずつ歩みを進めた。


その一方、美羅を消滅させる方法が秘匿されていると思われる機械都市『グランティア』では、幼い少女が偵察を終え、『レギオン』のギルドホームに帰還していた。

ニコットはドアのセキュリティを解除して、ギルドマスターが控えている部屋に入る。

そこは、物々しい機材が置かれただけの研究室のような空間が広がっていた。

ディスプレイや小型の機械は、全て中央の玉座へと繋がっている。

ニコットは、部屋に控えていた賢に対して、今後の方針を提示した。


「手嶋賢様。ニコットは、吉乃信也様から言付けを預かっています」

「言付け?」


賢は顎に手を当てて、ニコットの言葉を反芻する。


「私は一毅の願いを叶えるために、『明晰夢』の力を使って、密風望と椎音愛梨を捕らえる。賢とかなめはその間、美羅の真なる力を目覚めさせる手段を進めてほしい」

「ーーっ!」


ニコットが口にしたのは、戦いに赴く信也が残した信念。

信也のその矜持は、今までのどの言葉よりも賢達の心に突き刺さっていた。


「美羅の真なる力を目覚めさせる手段。ニコットはそのために、美羅様と特殊スキルの使い手をシンクロさせることができます」


ニコットの意味深な言葉に、賢はインターフェースを操作して、改めて機械人形型のNPCであるニコットの情報を表示させた。


「シンクロ……。それを使えば、美羅様の真なる力を覚醒させることができるのか?」

「確証はできませんが、不可能ではないと判断します」


賢の意向に応えるように、ニコットは淡々と告げる。

ニコットは、他の自律型AIとは違う仕様を持つ不思議なNPCだ。

実は、『創世のアクリア』のプロトタイプ版の開発者である一毅によって、究極のスキルを促すために作られた機械人形型のNPCである。

だが、その事実は、望達はもちろん、規格外の力を持つ紘さえも知らない。






「お帰りなさいませ」


望達がギルドを出ると、NPCの御者は丁重に声をかけてくる。

NPCの御者に案内されて、望達は再び、馬車に乗り込んだ。

NPCの御者の手引きにより、馬車が動き始める。


「俺達は、吉乃美羅にもっとも近い存在か」

「私達は、吉乃美羅にもっとも近い存在なのね」

「望くんと愛梨ちゃんは、絶対に私達が守るよ」

「ああ。絶対に望とリノアを守ってみせる!」


望とリノアが咄嗟にそう言ってため息を吐くと、花音と勇太は元気づけるように意思を固めた。


「花音、勇太くん、ありがとうな」

「花音、勇太くん、ありがとう」

「うん」


望とリノアが誠意を伝えると、花音は朝の光のような微笑みを浮かべた。


絶対に守るーー。


その言葉には何の根拠もなく、何かの保証には決してなり得ないことを知りながら、花音が口にすると、まるでそれは既に約束された未来の出来事のように感じられた。

望の中で、漲る力が全身を駆け巡る。

望が感慨にふけていると、奏良は思案するように城下町へと視線を巡らせた。


「有、これからどうするんだ?」

「吉乃信也に会うために、冒険者ギルドに赴こうと思っている。そして可能なら、吉乃信也を捕らえて情報を聞き出すつもりだ」


奏良の疑問を受けて、有はインターフェースで表示した王都、『アルティス』のマップを見つめる。


「冒険者ギルドか。やはり、吉乃信也に会いに行くんだな」

「ああ。正直、椎音紘の思い通りに、事が進むのは癪だが仕方ない。闇雲に探すよりも、場所が分かっている者のもとへ出向く方が効率がいいからな」


奏良の言及に、有は落ち着いた口調で答える。


「でも、お兄ちゃん。冒険者ギルドに行っても、『アルティメット・ハーヴェスト』の人達が多いんじゃないのかな?」

「その通りだ、妹よ。だからこそ、冒険者ギルドに行く必要がある。『アルティメット・ハーヴェスト』の援護を見込める状況なら、吉乃信也も下手に動く事は出来ないからな」


花音が声高に疑問を口にすると、有は意味ありげに表情を緩ませた。


「すごーい! さすが、ギルドマスターのお兄ちゃんだね!」


有の思慮深さに、花音は両手を広げて歓喜の声を上げる。

居ても立ってもいられなくなったのか、花音はモンスターに攻撃する際の身振り手振りを加えながら飛び跳ねた。


「お兄ちゃん、吉乃信也さんってどんな力を持っているのかな? どんな相手でも、私の天賦のスキルで倒してみせるよ!」

「花音。まだ、『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドの中だ。これから検問の門を通る事になる。少し場所をわきまえてくれ」


花音が自信満々で告げると、奏良は呆れたように視線を周囲に飛ばす。

望達が乗る馬車は帰りも、人々の注目の的になっていた。

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