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留菜マナ
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第三百五十九話 静閑を裂く②

公開日時: 2022年9月16日(金) 16:30
文字数:1,352

按図索駿を発した花音に呆れの色を滲ませつつ、奏良は思考を重ねる。


今、花音に不意討ちが出来ないのなら、不意討ちが出来る環境を整えてやればいいだけの話かーー。


戦局全体を見極めていた奏良は、銃を構えると骨竜達ではなく、『カーラ』のギルドメンバー達に対して範囲射撃をおこなう。


「ーーっ」


不意を突いた連続射撃は、骨竜達を呼び出した『カーラ』のギルドメンバーも含めて、彼らを大いに怯ませる。


「喰らえ!」

「ーーっ!」


奏良が放った更なる銃弾の嵐が、『カーラ』のギルドメンバー達の動きを阻害した。


「「花音!」」


その声に呼応するように、望達をブラインドして近づいていた花音が『カーラ』のギルドメンバー達にとっては死角から現れる。


「行くよ!」


花音の放った氷属性の飛礫アイテムが、意識を奏良に集中していた『カーラ』のギルドメンバー達へと叩きつけられた。


「くーーっ」


これに対して、『レギオン』のギルドメンバー達は攻撃を避けながらも、『カーラ』のギルドメンバー達の援護に回るために防御を固める。


「よーし、さらに行くよ!」


その布陣を見た花音は、即座に判断した。

花音は裂帛の気合いと同時に、『カーラ』のギルドメンバー達の周囲を囲めようとした『レギオン』のギルドメンバー達の元へと動く。

鞭を振るい、疾風の如き速さで距離を詰める。

花音は『レギオン』のギルドメンバー達に反応させることさえ許さず、先制の一撃を叩き込むことに成功した。

一撃を叩き込むと即座に、囲まれないよう立ち回る。


「敵を惹き付ける囮という大役、私達が務めてみせます」


プラネットは吹っ切れた言葉ともに、両拳を『レギオン』のギルドメンバー達に叩きつけようとした。

それと同時に高濃度のプラズマが走り、爆音が響き渡る。

煙が晴れると、ぎりぎりのところで回避した『レギオン』のギルドメンバー達は大きく後方に下がっていた。

だが、それでも『レギオン』のギルドメンバー達は前に進み出て、行く手を阻むように包囲を固める。


「勇太くん、行くよ!」

「ああ、任せろ!」


花音と勇太は並走して、苛烈な連携攻撃を『カーラ』のギルドメンバー達に加えていった。

だが、包囲を崩そうしても、すぐに強固な陣形を組まれてしまう。


「切りがないな」

「切りがないね」


望とリノアは剣を構え、活路を見出だすために周囲を見渡した。


「前に突き進めないなんて……」


花音は名残惜しそうな表情を浮かべると、前方の強固な防衛陣を見つめる。


「心配するな、妹よ。イリスが事前に罠を解除している。このまま攻め込めば、必ず勝機はある」

「うん。お兄ちゃん、そうだね」


杖を構えた有の宣言に、花音は人懐っこそうな笑みを浮かべて答えた。


「ここで諦める選択を選ぶなんて、私達らしくないもん」

「そうだな」

「そうだね」


予測できていた花音の答えに、望とリノアは笑みの隙間から感嘆の吐息を漏らす。


「俺達が勝つためには、この状況を打破するしかないな」

「私達が勝つためには、この状況を打破するしかないね」

「うん」


望とリノアの決意の宣言に、花音は意図して笑みを浮かべてみせた。


「「はあっ!」」

「くっーー」


望とリノアによる阿吽の呼吸。

望とリノアの息の合った連携は、『レギオン』と『カーラ』のギルドメンバー達に強力な攻撃ではなくては状況を打破できない、という思い込みを誘発させた。

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