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留菜マナ
留菜マナ

第十一話 始まる世界と落ちる星屑③

公開日時: 2020年11月3日(火) 16:00
文字数:1,647

「時間限定クエスト?」

「うん。『創世のアクリア』の公式リニューアル当日のみに開催される上級者クエストだよ」


望の疑問に、携帯端末をかざした花音が答える。

その瞬間、望達の目の前には、クエストの詳細が明示された。


『カリリア遺跡に潜むボスの討伐』


・成功条件

 本日までにボスを討伐

・目的地

 カリリア遺跡

・受注条件

 上位ギルド以上の登録

 個別プレイヤー同士の受注は受け付けておりません。

・報酬


・最初にボス討伐を行ったギルドのみに配布

 星詠みの剣、アルビノの鞭、アサルトライフル、神速の弓


・ボス討伐を行った全てのギルドに配布

 回復アイテム10個

 転送アイテム10個

 『マナー・シールド』5個


『マナー・シールド』は、このクエストのみで配布される、一度だけ全ての攻撃を防いでくれるレアアイテムとなります。


「伝説の武器が手に入るのか!」

「それだけ強力なボスが待ち構えているのかも」


目を見張るような報酬を見て、望と花音は驚愕する。


「望くんはやっぱり、『星詠みの剣』だよね。光の魔術による付与があるから、すごい連携攻撃が出来そうだよ」

「花音はどうせ、『アルビノの鞭』狙いだろう? せっかく全種類の武器が装備できるんだから、他の武器を使ってもいいのにな」


花音の言い分に、望は少し逡巡してから言った。

その指摘に、花音は信じられないと言わんばかりに両手を広げる。


「鞭使いになってから、他の武器を極めたいの」

「……おい、望、妹よ」


有がギルドマスターなのに、当事者抜きで話が進められていく。

その様子を不思議な諦念とともに傍観していた有は、妹が口にしたつぶやきには突っ込まざるをえなかった。


「このクエストを攻略したら、私達は伝説の武器使いだよ」

「妹よ、俺の武器はないぞ」


なし崩し的に、有達のギルド『キャスケット』のクエスト受注が決まってしまった瞬間だった。






望達は携帯端末を操作して、『創世のアクリア』へとログインする。

旧バージョンの頃より、目の前に広がる金色の麦畑や肌に纏わりつく風と気候も、まるで本物のように感じられた。

だが、有達のギルド『キャスケット』がある、湖畔の街、マスカットの街並み自体はさほど変わっていない。

今日から『創世のアクリア』の公式リニューアル開始のため、大勢の人で賑わい、プレイヤー達の行き来も激しかった。

クエストを受注するためには、自分達のギルドに訪れて申請しないといけない。

望達は早速、懐かしのギルドへと足を運ぶ。


「有、花音、それに望くん」

「母さん!」

「お母さん、お待たせ!」

「こんにちは」


望達がギルドに入ると、既に有の母親が控えていた。

アンティークな雑貨の数々と、有の母親の火の魔術のスキルで光らせている灯は、ギルド内に幻想的な雰囲気を醸し出している。


「わーい! ギルドに戻ってきたよ!」


ギルド内も変わっていないことを確認すると、花音は嬉しそうにはにかんだ。

望は居住まいを正して、真剣な表情で尋ねる。


「先にログインしていたんですね」

「蜜風さんから、望くんのことを頼まれてね」


有の母親の言葉に、望は今朝、望の母親にログインする報告をしたことを思い返す。


「よし、ギルドの管理は母さんに任せて、馬車を確保するぞ」

「うん」


目的のクエストを受注した有の指示に、花音は大きく同意する。

だが、花音はすぐに思い出したように唸った。


「でも、今日からサービス開始だから、今からだと馬車の確保は難しそうだよ」

「そうだな」


花音がインターフェースで表示した時刻を、望はまじまじと見つめる。

朝と昼の狭間の時刻。

サービス開始日と重なって、馬車の確保は困難を極めるだろう。


「心配するな、望、妹よ。こんなこともあろうかと、母さんに頼んで、前もって馬車を手配してもらったからな。この街の外に行けば、馬車に乗れるはずだ」

「さすが、お兄ちゃん!」


有の発言に、花音は両手を広げて歓喜の声を上げる。

望達は早速、ギルドを出て、街の外で待ち構えていた馬車に乗り込んだ。

NPCの御者の手引きにより、馬車が動き始める。

そして、望達は目的地のカリリア遺跡へと向かったのだった。

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