勇太が今、対峙するべきは、迫る眼前の脅威だ。
そして、『レギオン』と『カーラ』への邪念よりも先に、大切な幼なじみを守るという信念。
「行くぜ!」
断定する形で結んだ勇太は、目の前の敵に向かって駆けていった。
『エアリアル・アロー!』
さらに奏良が援護するように魔術を唱えると、無数の風の矢が一斉に『レギオン』と『カーラ』のギルドメンバー達へと襲いかかった。
「ーーっ!」
放たれた風の矢を、上体をそらすことでかわした『レギオン』と『カーラ』のギルドメンバー達は、視界を遮る風圧に反撃の手を止める。
「望達の邪魔はさせないからな!」
かなめ達にそう語りかける勇太は揺るがない意思を表情に湛えていた。
――世界の安寧のために犠牲が付きものだ。
そんな言葉に頷いてはいられない。
未来のために、大切な人の犠牲を孕む可能性をこのまま、見過ごせないと。
「望と愛梨の特殊スキルなら、美羅によって定められた未来を変えることができるはずだ」
その様子を見守っていた徹は屈託のない様子でつぶやいた。
『創世のアクリア』のプロトタイプ版を産み出した四人の開発者ーー。
『救世の女神』を産み出すという禁忌を犯したことで始まった戦いは、仮想世界だけではなく、現実世界までも浸食していった。
漠然とした想いのまま、徹達は理想の世界へと変わった現実世界での日々を過ごしている。
しかし、特殊スキルの使い手達だけではなく、一介のプレイヤーである自分にもできることはあるはずだ。
相手は『創世のアクリア』のプロトタイプ版を産み出した四人の開発者の一人、吉乃かなめ。
予想以上に長丁場になりつつある激戦。
それでも徹はこの戦いに勝ち目があると実感している。
だからこそ、みんなで一緒に立ち向かう。
理想の世界という定められた運命に対抗するためにーー。
「勇太くん!」
「花音、任せろ!」
声に呼応するように、花音をブラインドして近づいていた勇太が、かなめにとっては死角から現れた。
「行くぜ!」
勇太の振るった大剣が、かなめに叩きつけられる。
「ーーっ」
咄嗟の判断で回避行動を取ったかなめは、直後にそれが取り返しのつかないミスであったことに気づいた。
「これで終わりだ!」
「これで終わらせる!」
かなめの回避した方向には望とリノアが迫っていた。
望とリノアは気迫を込めて乾坤一擲の技を放つ。
望とリノアの声に反応するように、それぞれの剣からまばゆい光が収束する。
二人の剣の刀身が燐光(りんこう)を帯びると、かってないほどの力が満ち溢れた。
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