「おいおい、どういうこったよ、山田!」
自分のクラスの教室に入り、窓際の席についた山田に佐藤が話しかけてきた。
「なんだ、佐藤か……」
頬杖をついていた山田は佐藤をチラッと見ると、すぐに窓の外に視線を移す。
「いや、だから無視すんなよ!」
「……反応はしただろう?」
山田は視線だけを佐藤に向ける。
「反応って言わないんだよ、それは」
「一瞥だったな、間違えた、これから気を付ける」
「んなこと、気を付けなくて良いんだよ! それよりもよ!」
「……なんだ」
「お前、昨日オパールちゃんとどうなったんだよ!」
「別にどうもなっていない」
「嘘つけ」
「なにが嘘だ」
「なんか図書室でイチャイチャしていたらしいじゃねえか」
「イチャイチャなどしていない」
「本当か?」
「本当だ、ただ……」
「ただ?」
「歌を歌っていて注意されてしまった……」
「はあ? 歌?」
「結局追い出されてしまった……」
「追い出された?」
「俺としたことが……今後は……」
「今後は?」
「そのようなことがないように努めていく所存だ」
「お、おう……」
「以上」
山田は再び窓の外に視線を移す。
「いや、問題はその後だ!」
「……その後?」
「なんか楽しげに下校デートしていたらしいじゃねえか」
「デートはしていない」
「一緒に下校していたのは認めるんだな?」
「……」
「……へっ、語るに落ちたな」
「……落ちるほど語っていないが」
「とにかくだ、登校の時はたまたま会ったとかなんとか言っていたが、下校まで一緒っていうのは、もう言い訳出来ないよな?」
「たまたま帰り道が一緒になっただけだ」
「だからお前の家は全くの逆方向だろうが」
「俺が渋谷の方に用事があった」
「なんの用事だよ?」
「そこまで言う必要はないだろう」
「うむ……」
「もういいだろう?」
「いや、良くない、そもそもとして……」
「そもそもとして?」
「図書室でナニをやっていたんだ?」
「おい、“なに”のイントネーションがおかしいぞ」
「え?」
「ついに日本語の発音もままならなくなったか……」
山田がかわいそうなものを見るような視線を佐藤に向ける。
「そ、そういう話は良いんだよ! 図書室で一体……」
「勉強していたんだ」
「勉強?」
「図書室でやることと言えば、勉強か読書以外にないだろう」
「歌っていたんじゃなかったっか?」
「だから、あのようなことは今後繰り返さないように……」
「あ~所存はいいから……なんで一緒に勉強することになるんだよ?」
「さあな」
「さあなってなんだよ」
山田は一瞬迷ったが、これくらいは言ってもいいだろうと思い、佐藤に告げる。
「……高校の勉強が難しいから教えて欲しいということだった」
「なんでそれでお前が出てくんだよ」
「勉強が出来そうで暇そうな奴を探したらたまたま俺が該当したんじゃないか?」
「たまたまって……そんなことあるか?」
「俺がリストアップしたわけじゃないからな」
山田がわざとらしく両手を広げる。佐藤がうなだれる。
「そ、それでかわいい新入生から声をかけてもらえるとか……前世で一体どんな徳を積んだんだよ……」
「前世は関係ない。今世ちゃんと頑張っているからだろう」
「くそー! なんでお前ばっかり!」
「来世に期待しろ」
山田は三度窓の外に視線をやる。
「俺は来世の話かよ……って、そうじゃなくてよ!」
「……だからなんだ」
山田がうんざりしながら頬杖を外し、佐藤の方に体を向ける。
「オパールちゃんの話はいい! 問題はさっきのことだ!」
「さっきの?」
山田が首を傾げる。
「サ、サファイア先輩と仲良く楽しそうに登校していたじゃねえかよ」
「していたな」
「み、認めるんだな……」
「ネタは上がっているんだろう?」
「あ、ああ、そうだ……」
「別に楽しくはなかったぞ?」
「え?」
「結構キツかったな、正直甘く見ていた……」
「キ、キツかっただと……? 朝からナニを……?」
「だからイントネーションがおかしいぞ。そんなことばっかり考えているからだ」
「ええい! なにをしていたんだよ⁉」
「……一緒にランニングしていただけだ」
「ランニング?」
「ああ、そうだ」
山田は頷く。
「なんでそんなことになるんだよ」
「……たまたま通学路が一緒だったんだよ」
「だから嘘だろうが、お前らの家が真逆だ」
「……なんとなくノリでああなったんだよ」
「いや、どんなノリだよ」
さすがに苦しくなってきたと思った山田は会話を打ち切ろうとする。
「もういいだろう? あの先輩とは特に仲いいというわけじゃない」
「山田君~サファイア先輩が呼んでいるよ~」
「!」
女子からの声に振り向くと、教室の入口にサファイアが立っている。佐藤のみならず周囲の視線が集中し、山田は頭を抱える。
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