「ごめんなさい、目立つようなことになってしまって……」
「いえ、それは別に良いのですが……」
放課後、山田はサファイアの後に続いて歩く。
「色々と騒がしいものですね……」
「はあ……あの、それで一体何の御用でしょうか?」
サファイアは振り返る。
「ジャージは持ってきましたか?」
「え、ええ……」
「そうですか、それは結構……」
サファイアは再び前を向いて歩き出す。
「あ、あの……」
「着きました」
「え?」
「こちらです」
サファイアが指し示した先にはフットサルのコートが並んでいる場所だった。
「こ、ここは……フットサル?」
「自分の足に難なく着いてきた貴方を見込んでお願いがあります」
「は、はあ……」
「自分のサッカーのトレーニングに付き合って欲しいのです」
「ええ?」
約二十分後、山田とサファイアはコートで向かい合っていた。
「……アップはこのくらいで良いでしょう」
「は、はい……」
「ちなみにサッカーの経験は?」
「いや、遊びとか、体育の時間ではありますが……」
サファイアの問いに山田は正直に答える。
「ふむ……ただ、聞いたところによると……」
「はい」
「色々な運動部に助っ人として駆り出されているとか……」
「ああ、まあ、はい」
「ならばさほど問題はないでしょう」
「え、えっと……」
「それでは……参りますよ!」
「!」
サファイアが山田をあっという間に抜き去ってゴールを決めてみせた。サファイアが振り返って淡々と呟く。
「さすがに棒立ちでは練習になりません……」
「あ、あの……」
「ん?」
「す、凄いドリブルですね! あんなの見たことありませんよ!」
「それほどのことではありません」
「いやいや、それほどのことですよ! え? 経験者なんですか?」
「……一応、日本代表候補ですが」
「ええっ⁉ な、なでしこジャパン⁉」
「まだ候補ですから……」
「い、いや、それでもかなり凄いですよ……」
眼鏡っ子のわりに体を鍛えている人だとは思ったが、まさかそこまでとは……。山田は己の偏見を恥じる。
「……かなりでは駄目なのです」
「はい?」
「これでは世界では通用しません」
「せ、世界……?」
「ええ、世界でやっていくには一人二人のマークは簡単に振り切らなければ……そのためにはもっとドリブルの精度を高めなければならないのです」
「精度を高める……」
「いや、それだけでは不十分ですね」
「不十分?」
「世界を相手にするには“必殺”のドリブルが必要です」
「ひ、必殺……」
「そうです」
「……分かりました、その必殺ドリブルを編み出すお手伝いをさせていただきます!」
山田が力強く答える。
「その気になって頂いたのはありがたいのですが……!」
サファイアが驚く。自分がキープしていたボールがあっという間に山田に奪われていたからである。山田が笑みを浮かべる。
「これくらいなら動けますよ?」
「自分からボールを奪うとは……」
「どうですか?」
「なるほど、相手にとって不足はないということですね……練習を継続しましょう」
それからしばらくの時間が経過した。
「はっ!」
「くっ!」
山田がサファイアからボールを奪う。山田が頷きながら、ボールを返す。
「だんだんとスピードについていけるようになりましたよ」
「……」
「あ、あの……?」
「すみません、もう一本いきます!」
「はい!」
(スピード一辺倒ではやはり駄目です。もっと緩急を意識して……)
「それっ!」
「なんの!」
「むう!」
山田が再びボールを奪う。山田がすかさずボールを返す。
「もう一本!」
(もう少しフェイントを織り交ぜていく必要がある……)
「えい!」
「よっと!」
山田が三度ボールを奪う。サファイアが唇を噛む。
「くっ……」
「あの……」
山田がおずおずと手を挙げる。
「なんですか?」
「素人考えで恐縮なのですが……」
「構いません」
「相手を直角に抜き去るように動きつつ、そこにヒールリフトでボールをふわっと上げたら、かわせるのではないでしょうか」
「‼」
「す、すみません……余計なことを」
「いや、やってみましょう……それっ!」
「⁉」
サファイアが見事にそのドリブルをやってのけ、山田をかわした。
「こ、これです!」
「あ、は、はい……」
山田は唖然とする。漫画で見た必殺技を組み合わせただけなのだが、それを実践してしまうとは……天才恐るべしだと思う。
「やったあ! やりました!」
「ええっ⁉」
山田がびっくりする。サファイアが急に自分に抱き着いてきたからである。
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