「なんだよ?」
視線に気づいたアクアマリンが尋ねる。
「いや、大丈夫かと思ってな」
「なんだそれ、大丈夫だよ」
アクアマリンが笑う。エメラルドが重ねて問う。
「本当か?」
「本当だよ」
「それなら良いが」
「さて、オレもそろそろ出かけるわ」
「マリンちゃん、今日は遅かったんだっけ?」
トパーズが尋ねる。アクアマリンが頷く。
「ああ、大学で講義受けて、バイトして、夜はライブ。晩飯は要らねえから」
「そう、無理しないでね」
「なんだよ、トパ姉まで」
「顔がこわばっているような……」
「元々こういう顔だよ」
「本当に心配しているのよ」
トパーズが真剣な目でアクアマリンを見つめる。
「いや、オレも人間だから、ライブ前は緊張もするさ」
「そう……」
「今日は結構大きなライブだからな」
「頑張ってね」
「あんがと。そんじゃ、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
「気をつけてな」
「ああ」
「……大丈夫そうじゃないな」
アクアマリンの背中を見てエメラルドが呟く。
「そうみたいね……」
トパーズが心配そうに頷く。
「手配しておくか……」
「え? まさか……」
「そのまさかだ」
「効果あるかしら?」
「アメジストの例もある。まあ、一応さ」
エメラルドが笑みを浮かべながら端末を手際よく操作する。
「……」
「あれ、マリンじゃん、大学にいるなんて珍しい~」
派手なメイクをした女性がアクアマリンに話しかけてくる。
「珍しくねえよ、この単位取らないとヤバいからな」
「真面目に勉学する気になったの?」
「なんだその言い方」
「だって単位取らないとヤバいだなんて」
「大学は卒業しないとマズいからな」
「ふ~ん、ダブり上等!ってキャラかと思ってた」
「どんなキャラだよ……」
女性の言葉にアクアマリンは苦笑する。
「ダブりもマズいの?」
「マズいな、下手すると姉に〇される」
「〇されるって……」
女性が笑う。
「マジだよ、うちの姉ちゃん、怖いからな」
「ああ、女社長さん、色んなコネがありそうだもんね」
「いや、そっちじゃない」
「え?」
「2番目の姉の方だ……」
「え、あの優しそうなお姉さん?」
「ああ」
アクアマリンが頷く。
「前、お店にご飯食べに行ったときのお姉さんだよね?」
「そうだ」
「え~怒ったりしなそうのに」
「それが怒ると怖いんだよ……」
「人は見かけによらないね~」
「全くだ」
「……そういや、今日はライブだっけ?」
女性は立てかけてあるギターケースを見て尋ねる。
「ああ、誰かさんがチケット買ってくれなかったやつな」
「だから~今日はどうしても都合が悪いんだって~」
「冗談だよ……そのうち、チケット取るのも大変なバンドになるぜ」
「はいはい、頑張ってね~」
女性は自分の席に戻る。その背中を見ながらアクアマリンが呟く。
「見てろよ……」
大学の講義を終え、バイトをこなしたアクアマリンが足早にライブハウスへと向かう。
「あ、アクアマリンさん」
「!」
アクアマリンは驚く。バイトの最寄り駅に山田が立っていたからである。
「どうもお疲れ様です」
「お、お前、なんでここにいるんだよ……?」
「いや、エメラルドさんに言われて……」
「エメ姉に? なんて言われたんだよ?」
「色々大変みたいだから手伝いに行けと……」
「なんだよそれは?」
「さあ……?」
山田は首を傾げる。アクアマリンはその脇を通り過ぎようとする。
「別に手伝うことなんてねえよ」
「あ、そのギターケースお持ちしますよ!」
「オレは人に自分の楽器は触らせねえ」
「そ、そうですか……」
山田が困った顔になる。アクアマリンは頭をかきむしる。
「……あ~もう、じゃあライブハウスまでな! 大事に運べよ」
アクアマリンがケースを渡す。
「は、はい! 分かりました!」
二人は電車に乗る。アクアマリンが車窓の外を眺めながら呟く。
「今夜はよ、大事なライブなんだ……レコード会社のお偉いさんも見にくる」
「え⁉ す、すごいですね」
「オレら目当てじゃなくて、他の出演バンドだけどな」
「あ、そうなんですか……」
「だけど、アピールには絶好の機会だ。オレは音楽で食っていきてえからな」
「はあ……」
「お前もせっかくだから見ていけよ」
「い、良いんですか? そういえばチケットとか持ってないですけど……」
「関係者ってことにすれば一人くらいは入れるさ、手伝ってくれよ、客席でサクラ」
「は、はい……」
ライブハウスに着くと、一人の女性がアクアマリンを見て声を上げる。
「あ、マリン! スカイが来れないって!」
「はあ⁉」
アクアマリンが驚く。
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