新六甲島古生物ワールド

Welcome to Paleontologic World
人鳥暖炉
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第四幕: Welcome to Paleontologic World

最終防衛システム

公開日時: 2020年12月30日(水) 00:02
文字数:2,133

「なにもかもが終わるって、なんですかそれ!? このサイレンはいったい何なんです、班長?」


 班長は俺の質問には応えず、というか俺の声が聞こえているのかすら定かではない様子で、停めてあった車に向かって唐突に駆け出した。

 慌てて俺もその後を追う。

 俺と、いっしょについてきたパックが車に乗り込んでくるのを見て、班長は慌てた様子で叫んだ。


「ハルツキ、お前はここで待ってろ!」

 

 俺も負けじと怒鳴り返す。


「こんなろくに説明もされてない、なにもかも中途半端でわけの分からない状況でおとなしく待ってられるはずないじゃないですか!」


「ああ、もう!」

 

 班長はいつも以上に余裕の無い表情で頭をがりがりと掻きむしる。


「今はここで言い合ってる時間も惜しい。私にも言えることと言えないことがあるが、言える範囲で説明はするから、途中で降りろよ」


 そう言うと、そのまま車を発進させる。


「で、班長は今、どこに行こうとしてるんです? さっきから鳴ってるこの妙なサイレンと関係あるんですよね?」


「……このサイレンは、ジーランディアシステム――この島に仕込まれた最終防衛システムの起動を知らせるためのものだ」


 班長は少し迷った後、そう応えた。恐らく、どこまで喋っても良いものかを悩んでいたのだろう。


「最終防衛? なんか聞くだけでずいぶんと御大層な印象を受けますけど、そんなものを使って守らなきゃいけないほど、この島はなにかの脅威にさらされてるんですか?」


「ジーランディアシステムが守るのは、この島じゃない」


 この島に仕込まれてるのに、守るのはこの島じゃない? なんだそれは。


「じゃあ、いったい何から何を守るためのものなんです?」


 答えを期待してしばらく待ってみたが、班長は険しい顔で前方を見たまま口を開かなかった。

 俺は、ため息を一つ吐く。


「なるほど、それが言えないことっていうわけですか。じゃあ最初に聞いた、今どこに行こうとしているのかって方についてはどうなんです?」


「ジーランディアシステムの発動条件は二つだ。一つは、特定危険古生物が完全に我々の制御を離れ、新六甲島が管理不能の状態に陥ったと判断された場合。だが、今そういう状況にあるとは私には思えない」


 最初はまた話を逸らされたのかと思ったが、続く言葉を聞いて、どうやらそうではないようだと俺は理解した。


「となると、可能性が高いのはもう一つの方だ。そのもう一つというのは、普賢が何者かによって奪われそうになった場合だ」


「つまり班長は今、普賢のところへ行こうとしてるってわけですか」

 

 班長は応えなかったが、その表情は俺の言葉を肯定しているように見えた。


「まあ、確かに普賢はうちの社にとって重要な資産でしょうけど……それにしても島自体が管理不能な状態と並べるのって、大げさすぎじゃありません? あれ、そういえば普賢ってどこに置いてあるんでしたっけ?」

 

 普賢はNInGen社が誇るスーパーコンピューターだというのに、考えてみると、社員でありながら俺はそのだいたいの場所すら聞いた覚えが無い。俺の業務内容上、知る必要が無かったからだと言ってしまえばそれまでなのだが。


 車が、急ブレーキをかけて停まった。


「説明はした。もういいだろう、ハルツキ。お前はここで降りろ」


「え、全然説明され足りないんですけど」


「さっきも言ったが、今はお前と言い合ってる時間も惜しいんだ。ここは引き下がってくれ」


「そんなに時間が惜しいんだったら、それこそこんな押し問答なんかしてないでそのまま俺を連れて行けば良いでしょうに」


「……ハルツキ、頼む」


 突然、班長ががばっと頭を下げた。


「あれのところにお前を連れて行って良いかなんて、私の一存で決められるようなことじゃないんだ。本当のところを言うと、ジーランディアシステムの話をしたこと自体が立場上かなりまずいくらいだ。いろいろと隠し事をしてる私が許せないなら、後でいくらでも殴っていい。だから、今は……」


 いくらでも殴っていいなどと言われても、ホモ・フトゥロスの件にしろジーランディアシステムの件にしろ、班長個人の隠し事というわけではないだろう。班長を殴ったり責めたりしたところでどうにもならない。

 俺は再びため息をつくと、車のドアを開けた。


「分かりました。そこまで言うなら、言われたとおり俺達はここで降りますよ。パック、行くぞ」


「……すまない」


 俺達が降りたのを確認すると、班長は車を発進させた。パックとともに、俺はそれを見送る。

 

 まったく、相変わらず班長は脇が甘い。俺は降りるとは言ったが、後を追わないとは一言も言っていないのだ。

 まあ、班長が自分の意思で俺を連れて行ったわけではなく、俺が勝手に後をつけたというだけなら、班長が問われる責任も小さくて済むだろう。


 こちらは徒歩なので、ここから目的地まであまり遠いようだと困るが、恐らくその心配は無い。

 班長の性格については、俺はよく知っている。あの人は迷う時間が長く、決断が遅いタイプだ。あれだけ必死になってここでなんとか俺を降ろそうとしたのは、もう目的地がかなり近くなってしまって、これ以上決断を遅らせるのが難しいからに違いない。


「それじゃパック、今の車の臭いの跡を追ってもらえるか?」

 

 パックは任せろとでも言うように、元気良く一声吠えた。

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